怒濤のようにひと月が過ぎて、Baton Rougeもようやく秋の気配(とはいえ日中はまだまだ30℃を超える)。学校生活にもだいぶ慣れてきた。こないだは初めて長めのペーパーをクラスで発表して、これがけっこう受けた。ディスカッションにも参加できるようになって、ようやく微笑みのアジア人から脱しつつある。が、極東から来た謎のまろうどフェイズが終わった分、普通に学生としてがんばらなきゃいけないのでその分鬼のように忙しいが、それでもなんとか体調も崩さずやっている。
留学経験者のみなさんからは「アメリカの大気には脂肪酸が含まれているので呼吸するだけで太る」というような忠告をいただいていたのでどうなることやらと思っていたが、先日体重計におそるおそる乗ったら体重は減っていた。一日5回くらい食べているのだけど、一回の食事量が少ないというのと、あとはやはりコンビニがないというのがわたしにとっては決定的なのだと思う。東京にいたときも基本的には野菜中心の正しい食生活を送ってはいたのだけれど、あのコンビニの光にどうしても弱くて、学校帰りにふらりと正門前のファミマに寄っちゃ肉まん食べたりしてたからな。いやでもやっぱ肉まん食いたい。
まぁそれはともかく、一週間に一回ないし二回しか買い物に行かないというのはなんだかんだでいいことなのかもしれない。しかしなんというか「食べ物がなくなったらどうしよう」という不安感はやはりどこかにあり、大量におかずを作ってもなくなった時のことを考えると貧乏性的にちょこちょこ食べてしまうのであった。実際一回あまりに忙しくて週に一度の買い出しさえ行かなかったときには食材もつき、キャンベルのスープ缶と冷凍のブリトーで生き延びたのであった。みんなスープ缶まずいって言うけど、あの缶臭さはワイン入れて煮とばしたりスパイスいれたりしたらなんとかなると思うんだけど。ちなみに冷凍のブリトーはお豆たっぷりで案外からだに優しかった。
そうそう豆である。豆を食べまくっているのだ、ここふた月。というのも、アメリカは肉食文化だからスーパーにはさぞかし肉がみっしりあるのだろうと思っていたのだけれど、そしてたしかに日本のスーパーの3倍くらいのスペースがお肉コーナーなのだけれども、買える肉が極端に少ない。鶏。これはいい。こっちは丸鶏とかターキーハムなんかもWalmartとかで普通にあるので、鶏にはほんとにお世話になっている。煮てよし蒸してよし焼いてよし。ただしだいたい皮は剥がれているので皮目をパリっと焼いたチキンはご無沙汰。一番登場回数が多いのは蒸し鶏で、もも肉にたっぷり(これがポイントでもも一枚につき大1くらい)お塩をすりすりして、生姜の輪切りとリーク(ふとネギ:とても甘い。日本だとやたら高いのだがこちらでは普通のおねぎの価格)の青い部分を乗っけてお酒を50ccくらいかけてリークの白い部分と一緒に蒸す。保存も利くしサラダにもつかえるし蒸し汁はスープに使えるしで便利。まぁとにかく鶏はよいのだ。牛もまぁいい。牛はひき肉以外あまり食べないのだけれど、実際のところお肉コーナーの約50%は牛とかラムとかの赤いお肉。当たり前だが日本よりはぜんぜん安いので心行くまで煮込める。で、問題は豚、そう豚なのだ。豚がめっぽう少ない。まず薄切りなんてコンセプトは牛だろうが豚だろうがこちらにはないのでそれは涙を飲むにしても、豚のひき肉というのがなぜだかほとんどお目にかからない。しかもブロックもまぁ赤い赤い。要するにこっちのスーパーの肉というのはなぜかものすごく脂肪コンシャスで(鶏の皮が剥がれているのもそれが理由のひとつかもしれないが)、紅白のミルフィーユ的バラ肉というものが存在しないのだ。これは困った。ひき肉で餃子が作りたい。バラ肉で角煮が作りたい。ぱさぱさの豚肉なんて豚肉じゃないやい。
まぁそんなわけでどうも使える肉が限られているので蛋白源が自然と豆になる。こちらは缶詰文化が非常に発達しているので、野菜でも肉でもなんでも缶が売っているのだけど、とにかく有り難いのが豆の水煮缶。日本でももちろんあるはあるのだけれど、けっこう高かったり量が少なかったりであまり毎日使おうという感じにはならなかった。しかしこっちだとでっかい豆缶がひとつ1ドルくらいで売っているし、種類もとにかく豊富。南部は豆料理が豊富だから、というのももしかしたらあるのかもしれないけれど、でもメキシカンもやっぱり豆をすごく使うし、これはアメリカ全体的なことなのかもしれない。Red kidneyを筆頭に(といってもこれだけで4ブランドくらいはどこでも置いている)chick peeやblack eyed peeやらrima beanやら、普通の水煮だけじゃなく調理済みの缶などもあり、とにかく豆豆豆である。で、これがほんとに助かる。ありがたいことに毎週野菜市場に連れて行ってもらっているのでそこで大量に野菜を買い込んで、まず帰って必ず(ここ2ヶ月で100%)作るのが鍋一杯のラタトゥイユなのだが、初日は普通に食べるにして、翌日の朝とかなんか物足りないなぁと思って豆缶(あとはソーセージとか)を投入すればなかなかheartyなごはんになる。Red beans and riceももちろん簡単でおいしいし、それになによりhummusがすばらしい。Hummusというのは中東発信の料理でベジタリアンのたんぱく源らしく、chick pee(ひよこ豆)をペーストにしたものなのだけれど、一度外で食べてすっかりはまり、これもほぼ毎週作っている。ポイントはやはりtahiniというごまのペースト、すりおろしのにんにく、レモン汁などを練り混ぜることなのだけれど、その時々でドライトマト(これまた安い。とにかく野菜市場の手作りドライトマトのうまいこと)を刻んでいれたり、カレーのスパイスを入れてみたり、クルミをローストしたのをまぜたり、いろいろ応用がきく。そのまますくって食べてよし、パンにはさんでサンドイッチにしてよし、野菜につけてよし。夜中に腹が鳴ったときの定番である。
食べ物の話をし始めると切りがないことがわかったのでそろそろやめなければいけないが、そんなわけでたんぱく源が肉から豆に変わった。あとは乳製品もなんだかんだで食べている。こっちはチーズの種類が(くどいようだがWalmartでさえ)豊富なので、ラタトゥイユにちぎったチーズを乗っけてチンすればとろとろうまうまだし、夜中に冷蔵庫の前に座って海苔(これは送ってもらってます。なにしろ日本で300円くらいのが優に10ドルはするのだ)にはさんでぱくつけば勉強もはかどる。牛乳とグラノーラのおいしい関係についてはまたいつか書くけれども、牛乳も日本では全然飲まなかったけどこっちに来てからなんだかんだで毎週買っている。興味深いのはどんな製品にもreduced fatバージョンが豊富に売っており、チーズでも牛乳でもなんでも気味が悪いほどに低カロリーのものが選べるようになっていることで、アメリカ人の脂肪コンシャスにはほんとに驚かされるのだけれども、ああしかしそれにしてもこんなに脂肪コンシャスなのに多くのアメリカ人はほんとに大きいのだ。体質的な問題(それから階層的な問題—Wholefoodsの顧客とWalmartの顧客の平均体重を比較したら15kg以上は違うはずだ)もあるのかもしれないけれど、バラ肉や鶏皮の脂肪を恐れた結果、身体が脂質を欲してバターや揚げ物に走っているのだとしたらなんとも皮肉なことだな、などと思う。くどいようだけど、豆も好き、でも、わたしは脂肪の適度に入ったお肉が食べたいんです。で、友達にバラ肉の説明を必死でしたら(赤いお肉で白い脂肪がサンドイッチになってるの、口に入れたら溶けるの、みたいな)それはWholefoodsに行って、お肉コーナーのお兄さんをつかまえて、marbledなお肉がほしい、と言えば切ってもらえるかもしれない、と教えてもらえた。Marbled。なるへそ。角煮まであと一歩。