お金貯めて三日泊まるのが夏休み
週刊誌読んでやって来れば数珠繋ぎ
冷めたスープ放り投げるように飲まされて
二段ベッドでもあたいの夏休み
Summer Vacation  あたいのために
Summer Vacation  夏 翻れ

—中島みゆき「あたいの夏休み」

2011年7月25日月曜日

Los Angeles, CA (4)

Los Angelesについてはまだまだいろいろ書くことがあって、撮り貯めた200枚超の写真を見ながらあの一週間を回想するとそれだけで幸せな気分になる(ふたりの顔の写っていない写真が驚くほど少ないのでこちらにアップできないのは残念だけど、ひとりでほくほくさせてもらっている)。たった一年ですっかり田舎生活に馴染んだ身としては都会の空気が少しだけ厳しく、外出から戻ったら手洗いうがいをする、というような都会生活のいろはをすっかり忘れて喉を痛めたりもして、人間は生まれ育ちの如何に関わらず生活の向き不向きというものがあるんだな、などと思いもしなくはなかったけれど、それでも字義通りにも比喩的にも万年晴れのLos Angelesは旅行者にとってはこの上なく楽しい場所なのである。

10年来の友人を口説き落としてついに脱がせ、初めて一緒に水着になったMalibu Beach(これまた億万長者の家々の壮観だったこと。ちなみに前述のGetty Museumの別館で、Gettyの私邸だったというGetty VillaもMalibuにあるのだけれど入るには予約が必要とのことで残念ながら行かれなかった。次回は是非行きたい)、万年晴れのLAの裏の顔ともいえる街唯一のWalmartがある裏さびれたエリア、それになんといってもいとしののdrag queen、Ravenを一目見たいというわたしの涙目の思いに答えて夜中に車を1時間以上飛ばして友人が連れて行ってくれたRiversideのThe Menagerieというゲイバー(なんとRavenそのひとは翌週West HollywoodにあるMicky'sでショウをするために不在だった…しかし初めてのドラッグショウ、ほんとにほんとにほんとに楽しくて、クイーン達におひねりをあげまくった。その度にじっと目を見てくれたり手を握ってくれたりするので失禁するほどうれしかった。自分がなにをしたいのかどこへむかっているのか最近よくわかりません) 、どれをとっても最高の出来事だった。

もちろん食いしん坊としては食べ物のことも書いておかねばならない。多くの都市同様、LAはレストランも充実しているのだけれど、なんといっても特筆すべきはアジア系の食べ物の強さである。写真左はコリアンタウンで彼女のお勧めの…これはなんという料理だったっけ、すっかり名前を忘れてしまったけれど(サムギョプサル?)、ごらんの通り豚バラ肉をじょきじょきとはさみで切って焼き鍋にのせ、周りのキムチスープと一緒に食べるもの。最後はここにごはんを入れておじやにして食べる。

アメリカ南部というのはアジアから遠く離れているためか、ほんとうにアジア人人口が少なくて、アメリカ中どこにでもあるという韓国料理店が驚くことに一店もない。アメリカ人の経営する中華料理店や寿司屋はあるのだが、それも正直言って、時に訪れるアジア料理に対する渇きを癒してくれる味とは言い難い。ただ、和食であればある程度は自分で作れるし、中華料理も工夫をすればそれなりにおいしいものが作れるのでよいのだが、こういう韓国料理だけは日本で作ったこともないのでどう逆立ちしてもできっこなく、時に、あー焼き肉食べたい!というような妙なホームシックに駆られるのだけど、ここLAに住む彼女はそんな望郷の想いとは無縁だろう。ダウンタウンにほど近いチャイナタウンでは写真のような飲茶もお腹いっぱい食べたし(おばちゃんたちがカートでいろんな飲茶を届けてくれる、あの本場式の飲茶である)、アメリカ印のハンバーガーでさえその名もUmami Burgerという、日本万歳なうまみたっぷりのバーガー屋さんがあり、これはわたしがいままでの人生で食べたバーガーの中で間違いなく一番おいしかったので、Los Angelesに行くことがあったらとりあえずだまされたと思って絶対行ってほしいところ。

しかし結局のところなによりもうれしかったのは忘れもしない去年のいまごろ、不安で泣きそうになりながらアメリカ入りしたわたしのBaton Rougeでの生活のセットアップを、はるばるLAから来てすべて(文字通り す べ て)手伝ってくれた友人と一年ぶりに再会して一週間過ごせたことで、二年連続でわたしのために夏休みを全部使わせた上、一週間で彼女の三ヶ月分くらいのマイレージを消費したのではないかというくらいさんざんいろんなところに車で連れて行ってもらって、すこし申し訳ない思いもやはり否定はできないのだけれど、毎週電話でさんざくさ話しているとはいえ実際に顔を見ればやっぱりこんなに安心できる相手がいるというのは奇跡的とでもいうほかなく、彼女の家でほんとうに満ち足りた時間を過ごさせてもらったのはほんとうに最高だった。

***

そんなわけで、わたしの苦学生なお財布ではなんのお礼もできないくらいの恩を受けたのだが、なにか出来ることはないかなぁと思っていた矢先、彼女が「ポットラックに持って行けるお料理はないかな?」と言ってくれたので、渡りに船とばかり一夜限りのお料理教室をさせてもらった。いろいろメニューは考えたのだけれど、アメリカだけではなく日本でもパーティに持って行って間違いなく喜んでもらえて、かつ外では(少なくともアメリカでは)なかなかおいしいものに出会えなくて、さらにはちょっとおしゃれな若い娘っぽい料理であるキッシュを一緒に作ることにした。ちょっと面倒くさいように思えるかもしれないけれど(そして実際自分のためだけになら絶対作らないくらい時間もかかるしカロリーも高いのだけれど)、生地から手作りしたキッシュの焼ける匂いというのは何にも代え難い幸せを(そうだな、たとえば一年ぶりの親友同士の再会くらいの幸せを)運んでくれるので、大切なひとになにか作ってあげたいときにはぜひ試してみてください。

[Roasted Onion Quicheのレシピ]

生地 (20cmのタルト型2台分なので半量で作っても)
 薄力粉 240g
バター 140g
卵 1
砂糖 大1
塩 小1/2
冷水 30ml

アパレイユ(卵液を気取ってこう呼びます)
卵 1
牛乳または生クリーム(またはhalf and halfのもの) 80ml
塩 少々
ナツメグ 少々
グレーテッド・パルメザン 大2から3

フィリング
たまねぎ 大2
マッシュルーム 1/2パック

まずは生地から。バターを1cmに切って冷凍庫に入れておく。薄力粉も冷蔵庫で冷やす。卵、砂糖、塩、冷水を溶きあわせてやはり冷やしておく。
バターと薄力粉をフードプロセッサーで撹拌する。バターが米粒大になるまで。(FPがない場合はカードかフォークで切り混ぜる。けしてバターが溶けないように注意)
②をボウルに移し、①の卵液を加え、混ぜる。あまり練らないように。水分が少し少ないように感じられてもそのうち馴染むので焦らなくてよい。とにかく練ってバターの塊がとけてしまったらさくさくにならないので要注意。
二つにわけてそれぞれラップでくるみ、冷蔵庫で最低半日、できれば一晩寝かせる(なお、この状態で冷凍もできる。)。これをしっかりしないと焼き縮む。
型にバターを塗り、小麦粉をはたく。
④の生地をオーブンシートで挟んで打ち粉を少々し、めん棒で均一に。型より3cmくらい大きくなるようにのばす。上のオーブンシートを外し、下のオーブンシートの下に手を滑らせ、裏返して型にあわせていく。底面から空気がはいらないようにくっつけてシートをはずし、その後で側面。焼き縮むので少し型より上にでるように指で押す。
フォークで軽く全体にピケ。そのまま1時間以上寝かせる(これも焼き縮みを防ぐため)
⑦の上にアルミフォイル、パイストーンを敷いて350°Fのオーブンで15分。アルミフォイルごとパイストーンを外したらさらに15分。これを空焼きという。
次はフィリング。玉ねぎは薄くスライス。マッシュルームもスライス。
フライパンにオイル(大1くらいかな)を熱して玉ねぎを炒める。あまり触らないでほっておく。玉ねぎがしんなりして水分が出たらバターを少し加え、塩こしょうで調味する。とにかく時間をかけて飴色になるまで。30分はかかるので覚悟しよう。
玉ねぎを一旦器にあけて、同じフライパンにオイルを少々足してマッシュルームを炒める。軽く塩こしょう。
アパレイユの材料を混ぜる。卵を泡立てるとオムレツのようになりがちなので優しく切るように。
空焼きしたタルトの上に玉ねぎ、マッシュルームを均一に乗せたらアパレイユを静かに注ぐ。350°Fのオーブンで40分焼いたら出来上がり。おつかれさま!あら熱をとって中身が落ち着いたら食べられます。


優しい友人のこと、わたしが帰った数日後には他にもいくつかあったサイドディッシュやスープなど、ぜんぶのレシピを試して、お気に入りのiPhoneで写真をとって送ってくれました。次に会うまでにまたわたしもたくさん新しいレシピを用意しておくので、どうかまたわたしの夏休みにはあなたの笑顔をいつも見せてくださいね。ほんとうに、ほんとうにありがとう。一年後に会う時には、もっと強くたくましく(それからあなたのかわりに運転もできるように)なっていますように!