お金貯めて三日泊まるのが夏休み
週刊誌読んでやって来れば数珠繋ぎ
冷めたスープ放り投げるように飲まされて
二段ベッドでもあたいの夏休み
Summer Vacation  あたいのために
Summer Vacation  夏 翻れ

—中島みゆき「あたいの夏休み」

2012年5月1日火曜日

お豆いろいろ

That time of the monthというのは日本語の「いまアレなの」にあたる婉曲表現なわけだが、いまはthat time of the semester、男女とわずまわりのすべての大学院生がPMS並みにとんがる学期末である(ちなみにアメリカにいると当たり前だがPMSという概念が日本より浸透しているのでけっこうそのへんのコミュニケーションが楽である)。ペーパー書きというのは案外体力勝負で、忙しいからといって栄養補給を怠っていると頭が働かなくなる。以前のエントリーでも書いたけれども、肉食系の顔に似合わず肉がそんなに食べられないわたし(肉は好きなのだが食べるとけっこう腹をクリティカルに壊す)は、こちらにきて主たるたんぱく源がお豆になって以来、めっぽう体調がよい。アメリカはほんとうに驚くほどベジタリアンが多く、ベジタリアン用にいろいろおいしい豆レシピがあるので、今日はお豆料理をすこしばかりご紹介しようと思います(ええ、レシピ紹介のエントリーでこの画像はないだろうとは我ながら思いましたよ)。

[Baked Beans のレシピ]
好き嫌いはあまりないほうなのだけど、はじめて baked beansの缶詰を(ふつうの豆缶と間違えて買った)開けて食べた時は飲み込む事が困難で涙目になった。甘い、脳天をつくほどに甘いのだ。あんこだと思って食べればいけるのかもしれないが、あんこにしてはたまねぎの風味があるからなんか変だし、こいつはすごいパンチのあるアメリカ料理を食べてしまった、と思っていた。が、それを眉根に皺を寄せてPJに話したところ、いや…実はけっこうbaked beans好きなんだよね…と濡れた犬のようなまなざしで言っていたので、これはいかんと思い、わたしも食べられるようにアレンジしたのがこのレシピ。というのも前述のようにbaked beansは缶で売られていることが多いのだけれど、なんと1860年代、南北戦争時にはbaked beans缶が兵士たちに支給されたというほどにこれは歴史が深いアメリカ料理なのだ。しかもbaksed beansはBoston baked beansとも呼ばれるほどニューイングランドに根付いた料理なのだが、PJは大学時代から約10年をボストンで過ごしているので、これは貧しくとも光り輝いていた大学時代を思い出させる青春の味でもある。わたしがアジア系のグローサリーショップで買った大事な納豆を食べていたときにPJが、いやしかし聞きしに勝るさすがの匂いだね、といっていてやや悲しくなったのを思い出しもしたのだけれど、やはり食の好みはいろいろとはいえ、慣れ親しんだ故郷の味を無理と言われるのは辛いものだものね。もともとのレシピはもちろんしょうゆなしのシロップ増し(本格的なものはアメリカ文学ではお馴染みのmolassesという精製していない糖蜜を使います)。けれどもこのバージョンはしょうゆに加え生姜が効いていて、四人分をふたりで丸々完食したくらい美味しかったです。ポイントはとにかくベーコンをかりっと炒めることでしょうか(いきなりベジタリアンレシピではなくなっているところがわたしの業の深さだが、baked beansは別名pork beans。豚はかかせないのだ)。

☆豆の缶詰 (あればPinto beans、なければred kidney)2つ
☆たまねぎ 1つ
☆にんにく 1かけ
☆しょうが 1かけ
☆トマト 1つ
☆ベーコン 厚切り 4枚 (300gくらい:ブロックならさらによし)
☆メープルシロップ(またはmolasses)75mm
☆しょうゆ 50mm
☆ケチャップ 大3
☆ドライマスタード 大1
☆フライドオニオン (あれば)適量

①オーブンは180℃(350°F)に余熱。
玉ねぎ、にんにくはみじんぎり、トマトは1cm角のダイス、しょうがはすりおろし(みじんぎりでも可)、ベーコンは1.5cm 幅に切る。
②熱したフライパンでベーコンを炒める。炒めるというよりは、ベーコン自身からでた脂で揚げるような感じになる。とにかくじっくり熱すると脂が大さじ3くらいでてくる。かりっと色づいたらキッチンペーパーに乗せて脂をきる。
③ベーコンのあぶらを大1ほど残して捨てる。にんにくをいれて(しょうがもみじんぎりならこの段階で)ゆっくり熱し、香りがたったらたまねぎを投入し、ほんのり色づいてしんなりするまで炒め、取り出す。
④同じフライパンでトマトを炒める。余計な水分が飛べばOK
⑤メープルシロップ、しょうゆ、ケチャップ、マスタード、おろししょうがをまぜあわる。
⑥豆の缶詰をあけて軽く水洗いし、ボウルにいれてベーコンの2/3量、たまねぎ、にんにく、トマトとあわせ、⑤をかけてさらにまぜる。豆をつぶしすぎないように。
⑦耐熱皿に⑥をいれ、残りのベーコン、フライドオニオンをトッピングし、1時間半ほどオーブンで焼く。15分ほど置いてからめしあがれ。

[Peas and Rice のレシピ]
恥ずかしながら子供舌のわたしは白米があまり好きではないので小学校の給食の際にはけっこう苦労したクチなのだが、そのかわり混ぜごはん系には目がない。我が家はおばあちゃんが毎月お赤飯を炊いてくれいた(冒頭の話に戻るようだが別に女家族の月のものに合せていたわけでもなんでもなく、ご先祖様の命日が月に一度はあるからである。さすが不動尊のお膝元な我が家だね)のだけれど、この季節になるとそれがグリンピースの豆ご飯になる。懐かしいなぁ豆ご飯、と思っていたら、PJがしみじみと peas and riceが食べたい、と言っていたので、おやこれは日米同じ感覚なのかなと思ったら、実際にはこれは単にPJがグリンピース好きなだけで、アメリカでメジャーな料理ではないそう(そのかわりご飯ではなくpearl onionと呼ばれる小玉ねぎとグリンピースをクリーム煮にしたものは人気でwhole foodsのデリでもけっこう頻繁に出ている)。こちらはPJが作ってくれたなぜかすこしインド風の豆ご飯のレシピで、シナモンとガラムマサラが効いてぱくぱくいけてしまう。自分で再現したこの写真ではうちにブラウンライスしかなかったのでそれをつかっているのだけれど、もともとPJは白米で作っていて、そのほうがグリンピースには合ったし、白に緑がよく映えました。

☆お米  1.5合
☆冷凍グリンピース 1カップ (日本のカップなら1.5弱)
☆玉ねぎ 1/2個
☆しょうが 1かけ
☆ガラムマサラ 小1
☆シナモン 小1/2
☆塩こしょう 好みで

①ごはんはふつうに炊いておく。
②しょうがはみじん切り、たまねぎは粗く刻む。
③冷凍グリンピースはレンジで1分ほど加熱し、解凍しておく
④フライパンにオイルを大1熱し、ショウガ、ガラムマサラ、シナモンを弱火で炒める。
⑤香りがたったら玉ねぎを投入、うっすら色づくまで炒め、塩小さじ1弱で味付け。
⑥炊いたお米と解凍したグリンピースをフライパンにいれ、まんべんなく混ぜ、味をみて塩こしょうで仕上げ。

[Roasted Pepper Hummus のレシピ]
もともとは中東の料理のハマス、けれどもアメリカではベジタリアンの常食の代名詞でどこのスーパーにも間違いなく置いてある。平たくいえばひよこ豆のペーストで、野菜スティック(セロリやベイビーキャロット)のディップにもなるし、ピタブレッドやクラッカーにつけて食べれば朝ご飯にもなる。たっぷり入った1パックが3ドルしないくらいなので買ってしまえばいい話なのだが(そしてわたしは買って安くておいしいものは買う主義なのだが)、手作りのほうが断然おいしいのもまた事実。タヒニという胡麻のペーストの瓶を買ってしまえばあとはアレンジは自在、毎週好みの味のものを作りおきして冷蔵庫に入れておけば小腹が空いた時にとても助かるので忙しい大学院生にはお勧めです。こちらのレシピはroasted bell pepperというパプリカを焼いたものの瓶詰めを使ったバージョンだけれども、もちろんただひよこ豆、タヒニ、にんにく、塩こしょう、レモン、クミンだけのシンプルなものでもおいしい。ちなみにこちらに来て学んだのは中東料理はギリシャ料理(これまたPJの故郷の味)にとても似ているということ。なのでこのレシピでは高カロリーのタヒニを使いすぎないようにタヒニと無脂肪のグリークヨーグルトを半々で使って、同じ地中海地方のイタリアンスパイスを使っている。グリークヨーグルトはベジネーズ、または低脂肪のマヨネーズでも代替可です。

☆ひよこ豆の水煮缶詰 1つ (煮汁とわけて豆は水ですすぐ)
☆缶に入った煮汁 30-50mm (缶の煮汁を使うのに抵抗があれば水、あるいはオリーブオイルで代替可)
☆ローステッドベルペッパー 4きれ
☆にんにくすりおろし 1かけ分
☆タヒニ 大1-2(日本ならば練り胡麻で代替可。ただし練り胡麻のほうがタヒニよりかなり濃いのでその場合は大1で十分。好みで味をみながら)
☆プレーンヨーグルト(またはベジネーズおよびマヨネーズ、なければタヒニを増やす) 大1
☆トマトペースト 大1
☆レモン絞り汁 1つ分
☆砂糖 小1-2 (はちみつでも可)
☆塩こしょう 小1 (好みで)
☆イタリアンハーブミックス 小1
☆パンプキンシード 大2

①パンプキンシードはフライパンでから煎りしておく
②パンプキンシード以外の材料をすべてフードプロセッサーにかける。テクスチャーもも好みなのだが、最初は水分(煮汁または水、オリーブオイル)少なめで始めて、ゆるめが好みなら分量を増やす。
③②にパンプキンシードを練り込んで完成。

[Black Beans Salsa with Tortillaのレシピ]
またサルサか、という感じだが暑い国の人たちは暑い時になにを食べればよいかよく知っているわけで、うだるような暑さの日にはメキシコ料理に勝るものはない。最近メキシコ人とエルサルバドール人のカップル(El SalvadorというのはMexicoの南、Guatemara、Hondurasに面した小さな国で、El SalvadorというのはThe Savior、つまりキリストを意味する)と友達になったのだけれど、彼らの作るメキシコ料理とスペイン料理には、おいしすぎていつも涙が出そうになる(そしてたいていこれまたプールサイドか裏庭で食べる)。これはblack beansとtortillaを使っているのであっさりしていながら腹持ちもするレシピで、暑くていまいち食欲のでない朝のごはんにはぴったりだと思う。この分量でサルサは大きなタッパーウェア一つ分(カップ3から4くらい)できます。

☆トマト 大2つ
☆ブラックビーンズの水煮  1缶(少しスパイシーに煮た缶詰も売っているのでそれでもおいしい)
☆玉ねぎ 1/2個(できればred onion)
☆serrano pepperまたはjalapeno 1つ
☆冷凍コーン 1/2カップ(日本のカップなら2/3カップ)
☆シラントロ(香菜) ひとつかみ
☆にんにくすりおろし 1かけ(チューブのほうが辛みは抜けている)
☆塩(ガーリックそると) 小1
☆ライム 2つ またはレモン1つ
☆スモークドパプリカ 小2-3 (なければ普通のパプリカおよびチリパウダー。これらは見た目に反して辛くない。むしろ甘い)
☆トルティーヤ 人数分
☆チーズ (シュレッドしたものならひとり大1-2くらい、スライスならひとり一枚。わたしはmexican mixのシュレッドかpepper jackというスパイシーなチーズのスライスを使う)

①玉ねぎは細か目のみじん切りにして砂糖大1をふりかけ、ザルにおいて空気にさらす。トマトは8mm程度のダイス、シラントロはみじんぎり、serrano pepperは極こまかいみじんぎりにする。ブラックビーンズは缶をあけ、流水でよくすすいでザルにあげてよく水をきる。
②①とコーン、にんにく、塩、パプリカ、ライムまたはレモンの絞り汁をあわせてよく混ぜる。
③アルミホイルにトルティーヤを置いてその上にチーズをのせ、350°F(180℃)のオーブン、またはオーブントースターに入れてチーズがとろけるまで。
④サルサを好みの分量のせて、折り畳むようにしてがぶっと食べます。サルサのジュースが垂れてくるのでお皿は必須。

[Red beans and riceのレシピ]
そして忘れてはならないのがred beans and riceである。Baked beansが東海岸を代表する豆料理なら、red beans and riceは間違いなくLouisianaの誇るCreole豆料理である。こちらのレストランでは月曜日のランチスペシャルにred beans and riceが出されることが多く、なんでだろうと思っていたらもともとはお洗濯の日である月曜日に、日曜日の夕食のお肉の残りと一緒にことこと豆を煮込んだのがこの料理のはじまりだということ。本格的なものはham hockという骨つきの豚肉を使うのだけれど、こちらはAndouilleというLouisiana特産の粗挽きの太いソーセージ(もちろん旨辛いんだなこれが)を使った簡易版。けれども味は秀逸で、Louisianaローカルの友人にも誉められました。

☆red kidney beans 2缶
☆ベーコン 厚切り2枚 (わたしはpepper smoke baconというまわりに黒胡椒のついたものを使います。150gくらい)
☆Andouille 1本 (またはチョリソーなど辛めのソーセージ。なければとにかくおいしそうな太いソーセージ。200gくらい)
☆たまねぎ 1個
☆セロリ 5茎
☆Green Bell Pepper (ピーマン)1つ
☆Red Bell Pepper  (パプリカ)1つ
☆にんにく 2かけ
☆トマト 1つ
☆スモークドパプリカパウダー  (なければ普通のパプリカまたはチリパウダー)大1-1.5
☆タイム 小1
☆Cajun seasoning 小2(わたしはTonny'sというブランドのものを使っていますが、手に入らなければCayenne pepper 小1にガーリックパウダー小1で代用してください)
☆Worcestershire sauce 小1.5 (日本ではウスターソースの名で売られているあれです。わたしはあれ、薄いからウスターなのかと思ってましたよ)
☆蜂蜜 小1.5
☆チキンブロス 500mm
☆炊いたごはん 適宜
☆Green onion(青ネギ)少々

①red kidney beansは缶から出して水ですすいでおく。
②にんにく、玉ねぎ、セロリは粗めのみじん切り。Bell Peppersは両方8mm角のダイスに。トマトも同様。ベーコン、ソーセージはそれぞれ1cm幅に切る。
③フライパンをよく熱して、ベーコンを炒める。炒めるというよりは己の脂で揚げ焼きにするように。かりっとするまで。ペーパータオルにあげて余計な脂をきる。
④フライパンには大さじ2くらいの脂が残っているので、一度火をとめてそのなかににんにくを入れ、弱火で熱する。香りがでたらたまねぎ、セロリのみじんぎりをよく炒める。軽く色づくまで、15分くらい。
⑤Bell Peppersを入れてさらに5−10分炒める。以前にも書いたがこの、たまねぎ、セロリ、ベルペッパー(ピーマン)をじっくり炒めたものがholy trinityと呼ばれる香味野菜の三位一体で、多くのCreole料理のベースである。塩こしょう(ガーリックソルト)、Cajun seasoning、パウダー、タイムを加えて炒めあわせる。
⑥お鍋に⑤の野菜と③のベーコンを移しておく。
⑦⑤の野菜を炒めたフライパンに(野菜のうまみがでているから洗わない)クッキングスプレーをして薄切りにしたソーセージを両面焼いていく。Andouilleは特に柔らかいので炒めると崩れてしまう(それはそれでひき肉みたいでおいしいのだけれど)。焼き上がったらお鍋に入れる。
⑧⑦のフライパンで①の豆を軽く炒め、お鍋に。最後にトマトも軽く炒める。
⑨鍋にひたひたになるくらいチキンブロスをいれ、1時間半ほど極弱火で煮込む。途中何度か灰汁をとって(灰汁をとるという発想はあまりアメリカにはないのか、どのレシピを見てもこの記述はないのだが、こういう料理だとつい灰汁をとりたくなる日本人の性)。
⑩水分がだいぶ少なくなったら、Worcestershire sauceと蜂蜜を加える。ソーセージの味によってだいぶ辛みに差が出るので辛くしたければcayenne pepperやCajun seasoningで調味。
⑪しばらく置いて味を馴染ませたら、炊いたごはんのうえにたっぷりかけて召し上がれ。仕上げにgreen onionを刻んだものを乗せると香りがさらにいいです。


というわけで、お豆レシピのエクストラバガンザであった。学期末にこれだけレシピをアップロードするわたしは筆まめなのかしら、豆だけに、うふふ。と思ったが、これをペーパーからの逃避と呼ばずしてなんと呼ぶ。とにかく学期の終わりまであと二週間をきったので、ふんどし締め直してラストスパート、がんばります。