お金貯めて三日泊まるのが夏休み
週刊誌読んでやって来れば数珠繋ぎ
冷めたスープ放り投げるように飲まされて
二段ベッドでもあたいの夏休み
Summer Vacation  あたいのために
Summer Vacation  夏 翻れ

—中島みゆき「あたいの夏休み」

2011年2月26日土曜日

Jambalaya

LSUに進学を決めた理由はいろいろあるのだけど、こんなことを言うとなにすっとぼけてんだと怒られそうだが、決め手のひとつにルイジアナの食文化があったのは、けして嘘ではない。

去年の今頃、いろいろな大学から入学許可が出て(これは自慢でもなんでもなく、それはもうどこにも受からなかったらやばいと思って死ぬ気で南の学校ばかり無節操に20校くらい受けたから、入学許可も出るというものなのだ)、気候とかプログラムとかあとはもちろんTAshipの額とか、いろいろ比較しつつ結局のところよくわからんな、と思いながらWikiでルイジアナを調べてたら、Holy Trinityという言葉が目に飛び込んだ。ルイジアナはもともとフランス領だったので、フランス系の血をひくCreoleやCajun(これらのethnic groupの定義はほんとにややこしくて、単にフランス系というだけではすまされないのだけど、とりあえずそれは措いておく)の文化が根強い。Creole料理はなんというのか、こってりと昔ながらのフレンチ系(ただししばしばスパイシー)、Cajun料理はもうちょっと全体的にシンプルなお父さんの料理(ただしほぼ間違いなくスパイシー)なのだけれど、ふたつの料理に共通しているのがこのholy trinityで、これはほとんどの料理に共通して使われる、たまねぎ、セロリ、ベルペッパー(日本で言うパプリカ)の香味野菜の三位一体を指す。フランス料理ではたまねぎ、セロリ、人参をみじんぎりにして炒めたものをmirepoixと呼ぶらしいのだけど、その名残なのだろう、大抵の場合この三種の野菜を細かく刻むかダイス状にしたものをゆっくりと炒めるところから料理が始まるのだけど、こうやって香味野菜をふんだんに使う料理がまずいはずもない。わたしのルイジアナの食文化にたいする敬意はWikiでこの言葉を目にした時にすでにほぼ確立され、それがわたしがLSUに進学を決めた理由のひとつにもなった。

あまり知られていないかもしれないが、日本のファミレスでも定番の味、ジャンバラヤも実はCajun料理である(ああなつかしのJonathan!)。なので当然のごとく、ルイジアナ中どのスーパーにもたいてい写真のようなジャンバラヤミックスが売っている。中にお米とスパイスのもとが入っていて、あとはholy trinityとソーセージ(ただしこっちのソーセージは直径4cm、長さは20cm以上でこれまたたいていスパイシー)、それに鶏肉があれば簡単にジャンバラヤが作れてしまう。これはこれでけっこうおいしいのだけれど、先日彼が海老とホタテを持ってきて、今夜は一緒にシーフードジャンバラヤを作ろう、というので自分達の創意工夫でジャンバラヤを作ってみたら、なんのことはない、ジャンバラヤミックスを使うまでもなくジャンバラヤというのは手軽な料理で、手作りするとうまさも倍増なのだった。覚え書きもかねてレシピを書いておこう。

まずはholy trinity。ただし今回はそれにくわえ、にんにく(2かけ)と生姜(1かけ)もみじんぎりにして最初にたっぷりめのオリーブオイルのなかで弱火で温める。じゅわじゅわしてきたらスライスした玉ねぎ(大1個)を投入。それからやっぱりスライスしたセロリ(3茎くらい)を加えて、じっくり炒める。玉ねぎがうっすら茶色くなるまで我慢。しゃにむにかき混ぜずにほっておいても水分が野菜から出るので大丈夫。途中、ダイスにしたベルペッパー(今回は緑1、赤1)も軽く炒めて、いい感じになったらクミン(これも最初はdiscommunicationのもとで、「キューマンある?」「なにそれ、そんなのないよ」みたいな感じで最初はクミンのことだとは思わなかった)、ターメリック、カイエンヌペッパー、塩こしょう(ガーリックソルトと普通の塩)、それから秘密の "slap ya mama" というケイジャンスパイス(数あるケイジャンスパイスのなかでこれが一番人気) でしっかり目に味付け。

海老とほたての下ごしらえ。白ワインと塩で軽くもめば、アメリカの魚介類特有の臭みもさほど気にならない。野菜が十分に炒まったら一度お皿にだして、同じフライパンにオリーブオイルを足して海老とほたてに焼き目をつけるように炒める。フライパンには野菜とスパイスのうまみが詰まっているので拭いたりしないこと。海老のほうが火が通るのに少し時間がかかるので、ホタテは海老がほんのり色づいてから。ソーセージや鶏肉を使ったジャンバラヤのときも、同じようにすればいい(ワインの下ごしらえはいらないけど)。軽く火が通ったら野菜をフライパンに戻して、一緒に炒めあわせる。

で、普通のジャンバラヤの場合はこの時点で洗っていないお米を入れて(1合半くらいかな)だいたいお米の2倍くらいのチキンブロスとダイスにしたトマト(2個くらい)を加えて、水分が煮立ったら30分くらい煮込むのだけれど、今回はちょっと急いでいたのとブロスがあまり残ってなかったのと、それからあまりトマト味が強すぎるのが好みではなかったので、フライパンに白ワインを50ccくらい足してアルコール分を飛ばして、そこにトマトペースト5cmくらいを加え、そこにお鍋で別炊きしていたごはんを投入して軽く炒めあわせた。今回はこの方法がうまくいって、チキンブロスで煮込むと魚介の味が薄まってしまうと思うのだけど、しっかりホタテと海老の風味がごはん全体に行き渡った。ごはんを炊くのにだいたい20分強かかる(沸騰してから10分、蒸らし10分)のだけど、ちょうど蒸らしが終わった頃に他の準備が終わったので、ごはんを炊き始めたのが開始10分弱くらいだったことを考えると、30分以内でジャンバラヤができたことになる。

わたしはもともと料理が好きで、昔付き合っていた人の家でもよくごはんを作ってバイトから帰ってくる彼を待つという演歌みたいなことをしていたのだけれど、同時にいつもひとりで作業をするということになれていたので、いま付き合っている人と会う前は誰かと一緒にごはんをつくるということをしたことがなかった。なので最初に一緒にごはんを作ろうと言われた時は腰が引け気味だったのだけど、何回か一緒に作ってるうちに、なんだこれ楽しいな、ということに気づいた。副菜も同時に作れるし(今回はnappa cabbageという白菜みたいな野菜のサラダと、それから写真前方右のdelicata squashというかぼちゃの一種をただオーブンで焼いて、ほんの少しの塩とバターをからめたもの。シンプルだけど、死ぬほどうまい。ちなみに左はspaghetti squashというもので、これも調理法はdelicata squashと同じなのだけど、焼き上がって割るとその名のとおりスパゲッティーみたいな繊維状の中身が出てくるので楽しい。ただし味はdelicataのほうが濃厚で好み)、なによりままごとみたいで童心に返る。コースワークで死ぬほど忙しい毎日だけど、こういうほっとできる一瞬があるのはほんとにありがたいな、と思う。はっ。のろけてしまった。でも今日も宿題の映画のレビューを一本書いたうえ、書き上がった瞬間に椅子の上で身体をうんとのばしたら椅子から転げ落ち、となりに置いてあった木製の椅子に頭を強打してしばらく動けなかったので、明日もしかしたら脳震盪が後から来て動けなくなるかもしれない(と本気でパニクったのだが)ので、こういう幸せな瞬間を記録しておくことも大事なのだとひとり納得。