お金貯めて三日泊まるのが夏休み
週刊誌読んでやって来れば数珠繋ぎ
冷めたスープ放り投げるように飲まされて
二段ベッドでもあたいの夏休み
Summer Vacation  あたいのために
Summer Vacation  夏 翻れ

—中島みゆき「あたいの夏休み」

2012年4月13日金曜日

プールサイドでメキシカン

日本で春休みといえば、春は名のみの風の寒さや、という歌がしっくりくる、柔らかい陽射しに包まれながらひんやりとした芯を残すあの空気が思い出されるのだけれど、Louisianaの春休みはというとこれが、春は名のみの灼熱の太陽、抱いて抱いて抱いてセニョリータなお天気なのである。四月だというのにスタジアムにいけばひとびとは半裸体、歩いているだけで汗がしたたるようなこんな暑い日はそう、なんだか水辺でさっぱりしたものが食べたいな。

アメリカ人は休みの前となると必ずといっていいほど休みのプランを訊ねあう。たとえふつうの週末であっても、週末はどうするの?というのが金曜の定番の会話だし、月曜になると週末はどうだった?となる。こちらに来たばかりのときはなんというか、この休みにかける意気込みというか、休みは休みで遊ばなければ人間失格、みたいなこの文化に違和感があったのだけれど(だって日本じゃ誰もそんなこと聞かないじゃないですか)、二年も経つと当たり前にこれにも慣れてきて、春休み直前ともなれば当然のごとくTA仲間(アラサー女子4人)とSpring Breakどうするぅ?という会話にもなる。とはいえこいそがしい大学院生どうし、さしてお互い予定がないのはわかっているし、4人が4人とも小脇に30本のペーパーを抱えているわけで、えぇ、どうせグレーディングとペーパー書きだよ、今年30になるから決意の大人黒ビキニ買ったのにさ、着る機会なんてないんだから、とむくれていたら、一番年上のAが、お嬢さんビキニ着れるのも今のうちだから、うちにおいでなさいな、みんなでプールサイドでグレーディングしながらマルガリータでも飲みましょうや、という。


日本で自宅にプールというと小室哲哉かよという感じ(繰り返すが今年30になるのでなんと言われても小室哲哉の例は譲らない)なわけだが、アメリカの南では家にプールがあるというのはそんなに珍しいことではない。わたしの住んでいるところははもちろんLSUの大学院生用の築50年という年季の入ったボロアパートなので当たり前にプールなどないのだけれど、月に700ドル程度のアパート(Baton Rougeは家賃が安いのでこれで2ベッドルームのアパートが普通に借りられる)にも共用スペースにそれなりのプールがついているし、教授の家に行けば大抵これもまたプールがある(ただし一戸建ての場合プールに水を入れる水代ももちろん個人負担となるので、おじいちゃんおばあちゃんの先生のうちのプールには水がはいっていないこともある)。今年35になる生粋のLouisiana娘Aは結婚してちいさな子供もいるのだけど、昨年ついにプールのついた家をSaint FrancisvilleというBaton Rougeから車で30分くらいの街に買った。子供がいなければプールに水を張るのもめんどうくさい(掃除がけっこう大変なんだそうだ)のだけど、3歳の娘はすでにビキニをねだるお年頃、せがまれてプール開きをしたのでせっかくだから遊びにきたら、ということなのである。もちろんいつものごとくグレーディングとは名ばかりの小規模なポットラックになるわけだけれど、こうも暑いと秋冬にパーティに持っていくような焼き物はとてもじゃないが喉を通らない。そんなわけで今回はさっぱりしてお酒のおつまみにもなるメキシカンな野菜料理(くどいようだがアラサー女子、わたし以外はベジタリアンである)を持っていくことにした。

日本ではメキシコ料理というのは案外人気がなくて、わたしも日本にいた時は新宿のサザンテラスのエルトリートくらいしかいったことがなかったのだけれど、アメリカではどこのスーパーにいってもトルティーヤやタコチップ、サルサにワカモーレが普通に売られているし、写真のメキシカンのファストフードチェーン、Taco BellはMcDonaldと同じくらいの人気である。肉、炭水化物、乳製品の三位一体からなるアメリカ料理とは対照的に豆と野菜をふんだんにつかったメキシカンはわりとお腹に優しくスパイスが効いて暑くても食が進むので、ベジタリアンにも人気である(PJの家に3ヶ月ほど住んでいたインド人留学生Nのインド人コミュニティ作成による「留学の手引き」には「アメリカのご飯を食べ続けていると病気になるので、インド料理が手に入らない時はメキシコ料理で我慢しましょう。」とまじめに書いてあってなんだか笑えた)。とはいえここは南部、アジア人だけでなくラティーノ人口も驚くほど少ない地域なので、メキシカンレストランはそこそこの数があるのだけれど、カリフォルニア生活の長いPJに言わせれば、食べながら涙がにじむほどに残念なお味だと言う。実際わたしも何度かメキシカンレストランに足を運んだのだけれど、うーん、なんというのだろう、何を食べても同じ味がするというか、味に深みもコクもなく、首をかしげて終わることが多かった(正直に告白するとTaco Bellがいちばんまともに思えるくらいだった)。

が、わたしのアメリカ的メキシコ料理に対する思いを決定的に変えたのが去年のNew Mexicoへの旅であった。夏になると暑さと湿気の苦手なPJはLouisianaにはとうていいられないので、数十冊の本と飼い犬のFootyを白いヴァン、その名もMoby(白い鯨のMoby Dickから)に乗せて、休みが始まるや一目散に南部を飛び出す。今年はNew Mexicoだよ!友達が旅行するんで 一ヶ月半くらいhouse sitをしてほしいって!と興奮する大きな図体の少年に、よかったねぇ、楽しんでおいでね、と言ったら、なに言ってんの、Maddieも来るんだよ、あたりまえでしょ。と言われて一瞬凍り付いたのだけど、なにはともあれアメリカ西部というのはアメリカ人作家達の見果てぬ夢の地であるので(もちろん当時ペーパーを書いていたWilla Catherもアメリカ西部に残るNative American文化に魅せられたひとりで、The Professor's HouseはNew Mexicoを巡る物語でもある)、研究者のはしくれとしてはアメリカにいる間にその地を訪れないわけにはいかない。緑深きLouisianaとは対照的な赤土の大地と鼻血がでるほどに極限まで乾燥した空気、Grand Canyon周辺での産まれて初めてのキャンプや写真のTaos PuebloというNative American reservation訪問など、この旅はほんとうに貴重な思い出をたくさんくれたのだけれど、中でも特筆すべきはメキシコ料理のおいしさだった(ええNew Mexicoですから)。「アメリカ料理」という言葉がどうもしっくりこないのはこういう風に、地方ごとにおいしいものがまったく違うからなのだけど、とにかくスーパーに何気なく置かれたサルサでさえもおいしく、最初は自分が食べているのがあの南部で食べたサルサと同じものだと気づかず、なにこれ超おいしいね、なんていう料理?といいながら冷蔵庫に入っていたサルサ一瓶を完食し、PJに爆笑された。以下のサルサのレシピはその瓶に書いてあった材料をさらにわたし好みに改良したもので、New Mexicoから帰ってから暑くなると必ず作り置きしているものです。

[基本のSalsaのレシピ]
☆トマト 大3個
☆レッドオニオン 大1/2個
☆シラントロー(香菜)の葉っぱ部分 片手に一握り
☆セラーノチリ 1個 (青唐辛子なのだけれど、手に入らなければもちろんハラペーニョでもよいし、それもなければタバスコ10ふりくらい。その場合は塩を控えめに)
☆コーン お好みで。入れなくてもいいけれど、入れると甘みが出てよい。
☆ライム 2個 (またはレモン1個)
☆クミン 小2 (なんといってもこれが決め手な気がする)
☆お酢 大1 (いつものとおりすし酢を使いますが、正統レシピではこれはいれません)
☆ケチャップ 大1(これも正統レシピではいれないのだけれど、入れるとコクが出るのでわたしはついつい使ってしまいます)
☆塩こしょう 好みで

①玉ねぎは細かいみじん切りにして、砂糖大1をまぶしてザルの上で空気にふれさせ、辛みを抜く(流水に浸してもよいのだけれど、水っぽくなるのがいやなのでわたしはこの方法を使っています)
②トマトは1cm角のダイスに。余計な水分を除いてボウルに。種を除くレシピが多いのだけれど、種にうまみがあると試してガッテンで聞いて以来、真偽のほどはわからないけれどなんとなくわたしは種を残しています。
③セラーノチリは種を除いて極細かいみじん切りにしてボウルに。チリを切った後の手で目をこすったり局部を触ったりすると悶絶することになるので調理後は死ぬほど石けんで洗ってください。
④シラントローも細かいみじん切り。コーン、辛みを抜いたオニオンと一緒にボウルに入れる。
⑤ボウルにライムの絞り汁、クミン、ケチャップ、お酢を入れ、ゴムベラで全体をよく混ぜる。塩こしょうで調味して出来上がり(わたしはどうしてもひと味足りない時は昆布茶を足します。トマトの質によるので)。そのままでもアペタイザーになるし、写真のトルティーヤチップス(トルティーヤを揚げた、あるいは焼いたチップス。要は濃い味のついていないドリトスです)と一緒に食べるとおいしいスナックに。

[Mango Salsaのレシピ]
サルサというのはいろいろなヴァリエーションがあるのだけれど、なかでもお気に入りはマンゴーを使った甘酸っぱいもの。これは魚料理とよくあうので、下味を着けた白身魚のソテーに乗せるととてもきれいだし、爽やかでとてもおいしいです。マンゴーが安売りしている時にはぜひ試してみてください。

☆マンゴー 3個から5個
☆レッドオニオン 1/2個
☆セラーノチリ  1個(これもハラペーニョまたはタバスコで代用可)
☆シラントロ ひとにぎり
☆パプリカ 1個 (トマトでも代用可。なければ抜いても大丈夫です)
☆ライム 2個 (またはレモン1個)
☆塩こしょう 好みで

①レッドオニオンは基本のサルサ同様、辛みを抜くためにみじん切り後砂糖をまぶしてザルの上で放置する。
②マンゴーはヘッジホッグ(ハリネズミ)のように切る。マンゴーを厚みの薄い方を正面にくるようにして立て、真ん中に平たい種があるので、それを避けるように両側を切りおとす。真ん中ができるだけ薄くなるように。
③切り取ったマンゴーにナイフで格子状に切れ目を入れる。皮を切らないように、でも下まで刃先が届くように。
④真ん中をぐっとおすと、写真のようにマンゴーの実が花開くので、ダイスになった果肉を皮からそぐように切り落とし、ボウルへ。
⑤チリペッパー、シラントロは極細かいみじん切り、パプリカないしトマトは8mm角のダイスにしてボウルへ。
⑥ライム果汁、塩こしょうで調味。けっこうきつめに塩こしょうをしたほうが甘みとのバランスがとれて食べ物にはあいます。わたしはここでも懲りずに昆布茶を使うことがあります。

[Fish Tacosのレシピ]
タコスというとぱりぱりと固いタコシェルにひき肉の炒めたのやレタス、ダイスにしたトマトを乗せて食べるのが主流で、それはそれでとてもおいしいのだけれど、今回はせっかく安売りのマンゴーでおいしいサルサを作ったので、魚を使ったタコスを作ってみた。タコス部分自体も、揚げたシェルではなくて素のままのトルティーヤをつかっているのでとてもヘルシーです。

☆白身魚(tilapiaやmahimahiなど。日本なら鱈とかなのかなぁ。こちらでは皮をはいだ白身魚がけっこう売っているのだけれど、考えてみたら日本だとあまり見ない気が…手に入らない場合は、鶏の胸肉などでもおいしくできるはず)500g
☆トルティーヤ 6枚(いわゆる「ラップサンド」で使われているあれです)
☆マンゴーサルサ 適宜
☆ロメインレタス 1株
☆レッドオニオン 1/2個
☆マリネード (ライムの絞り汁2個分、お酢大2、にんにくすりおろし2かけ、はちみつ小2、ライムの皮のすりおろし2個分、クミン小2、チリパウダー小1、塩こしょう小1.5、その他にコリアンダーなど好みのスパイスをいれたものを混ぜ、最後にオリーブオイル大2を入れてさらにまぜる)
☆ドレッシング (無脂肪のプレーンヨーグルト: 100g、 マヨネーズまたはベジネーズ: 100g、 クミン小1、カイエンペッパー小1/2、乾燥ディル小1.5、はちみつ小2、ライムの絞り汁1個ぶん、塩こしょう適宜、タバスコ適宜をまぜる)

①白身魚はキッチンペーパーで水分をとり、大きめのそぎ切りに。ぜんぶで12枚くらいになるように。
②マリネードの材料をあわせ、ジップロックにいれた魚にかけて空気を抜いて口を閉じたら6時間ほど置く。
③レタスは千切りにし、玉ねぎはごくごく薄い薄切りに。玉ねぎは冷水に5分ほどさらして辛みをぬき、しっかりと水気をとる。
④フライパンを熱し、トルティーヤを一枚ずつ焼いていく。とはいえ、市販のものはもう焼けいているので、温める程度。片面1分ずつ程度。テフロンなら油はいらないけれど、想でない場合はクッキングスプレー(スプレー缶に入ったオイル)を軽くふきかける。
⑤フライパンを熱し、マリネ液をよくきった魚を片面ずつ焼いていく。ほぐれやすい魚なので、こわれないように気をつける。そぎ切りにしているので火の通りは早い。蓋をして片面2分ほどで焼ける。
⑥トルティーヤに一枚ずつ、レタスの千切り、玉ねぎの薄切りを好みの量のせて、その上に白身魚ふたきれずつとマンゴーサルサを乗せ、最後にヨーグルトドレッシングをかける。全ての材料をテーブルに並べて、ひとりずつ食べるたびに自分で作った方がおいしいです。写真のものはさらにguacamoleというアボカドのディップ(アボカド二つをつぶし、そこに玉ねぎのみじん切り1/2個、トマトのみじん切り1/2個、チリのみじん切り1個をいれてライムの絞り汁1個分と塩こしょうで調味したもの)を合せていますが、これはなくても十分ボリュームがあります。

言うまでもなくプールサイドでのグレーディングはさしてはかどらず、アラサー女子はだらだらと子育てやら研究やらについて話しながらビールを片手にのんべんだらりと束の間の休みを過ごしたのだけれど、個人的に今回とてもよかったのはAの3歳になる娘とたくさん遊べたこと。これまで子供にはなんだか苦手意識があったのだけれど、写真のセクシーな三歳児はなぜかわたしをいたく気に入ってくれて、BeyonceのSingle Ladiesをわたしだけのためにといって踊りまくり、果てはわたしがグレーディングをしている膝の上で眠りこけてしまった。いますぐというわけにはいかなくても、こどもがいる人生というのもいいんじゃないかな、などとオレオで口の周りを黒くしながら寝息をたてる子供をひょいと肩に担いで家の中に連れて行くお母さんのAを見て思った夕暮れだった。ついでに、決意の大人黒ビキニは女子連に大好評だったのだが、「アジア人とは思えないケツ」「貧乳をおぎなってあまりあるケツ」「太平洋を超えたケツ」となぜか尻ばかりに対して惜しみない賛辞をもらった。ええ、なんと言われようとあと五年はビキニを着られるようにがんばります。