お金貯めて三日泊まるのが夏休み
週刊誌読んでやって来れば数珠繋ぎ
冷めたスープ放り投げるように飲まされて
二段ベッドでもあたいの夏休み
Summer Vacation  あたいのために
Summer Vacation  夏 翻れ

—中島みゆき「あたいの夏休み」

2011年1月22日土曜日

薬考

さて、新学期がはじまり、ひとしきり友人とハグなどを交わしていると、友人のひとりが煙草をやめたんだと言う。へぇ、そうかわたし相変わらずニコレットがやめられなくて、いつ止めたの?と言うと、12月末くらいにanti-depressantを飲み始めたんだけどこれが禁煙に効くんだよ、試してみたら?ととびきりの笑顔で言われた。

日本でだって精神科(という名前がまずなんかあれだけど)とか心療内科とかは90年代以降ポピュラーになってきて(ちょうど「癒し」が流行語になったあたりと重なるような気がする)、昔のようにかかってるだけでstigmatizeされるということも比較的少なくなって薬で鬱治療する人も増えているように思うわけだが、しかしやはりアメリカ人の薬に対する天衣無縫さというのには驚かされる。わたし自身、けっこう病院にかかるタイプなので薬に対する抵抗というのは少なく、それこそ気分がどうしてもコントロールできない時にぽいっと薬を飲むことだってあるわけなので、さしてかわりはないといえばないのだが、それでもこんなにうららかに「抗鬱剤が禁煙に効くんだ♥」とは言えないだろうと思うのは、根本的には薬というのは(とくに精神科系の薬)あくまで対症療法であって治療効果はあまりのぞめないという、正しいかどうかはともかくもそんな認識があって、それでなんか薬を飲むことにどこか罪悪感があるからのような気がする。

とにかくself-control というのが信条の国だからだろうか、アメリカ人は心身的問題が起きたときにそれを薬でコントロールするということに日本人より抵抗がない、というかむしろそれをよしとする気があるようなないような(どこまでをセルフとするかというのは微妙な問題で、わたしなんか薬を飲むことが果たして「セルフ」コントロールなのかどうかわからなくてためらっちゃうんだが)。時間帯にもよるが、わりと大手テレビチャンネルでピル(しかも生理を三ヶ月に一回にするような)とかバイアグラめいたもののCMが流れるのはけっこうよくあるし、もちろんバイアグラそのものの普及率も高い。たしか初期バイアグラのCMには誰だったか、共和党の元副大統領がでていて、「この薬のおかげでまた妻に愛を伝えられるようになりました、ありがとうバイアグラ」とかそんなコピーを口にしていたというような話も聞く。最近はparty drugと一緒にバイアグラを飲むのが若者の間で流行っているようで、ナニが止まらなくて病院に駆け込むというような例も増えているとかなんとか。

話がナニよりに傾いたが、とにかくアメリカ人の薬に対する抵抗のなさというか薬に対する信頼というか、は、どこか Brave New World (Aldous Huxley の1930年代のSFなのだが、ドラッグによる社会コントロールの話で、作者の来歴とか時代背景とかいろんな意味でけっこうおもしろいのだ)を思い出させるものがある。もちろんケミカルなものを嫌う人々は薬は飲まないのだけど、そのかわりにhomeopathy系の薬というかタブレットが普通にWholefoodsに置いてあったりするわけだし、あとは薬というよりはドラッグに近い話だが、大麻の普及率の高さには目を見張るものがある。南部だからなのかアメリカだからなのかわからないけど、普通にバーなどでとくに秘密めいた感じもなく平和そうにジョイントを吸っている人を見かけるし、英文科でも実はまだけっこう使用率は高いようだ(まだ、というのはなんか大麻というのはちょっとold schoolな感じがするというか、ヒッピー的な香りがするからなのだけど)。ある友人のMFAの男の子(彼氏のルームメイトなのだが)はとても温厚でなんというかまじめそうなヴェジタリアンでアルコールさえ飲まないのだけど、趣味がケーキとかクッキーとかを焼くことだということで、わたしはその彼とお菓子作りの話に花を咲かせていたのだけど、どうも彼が作っているのは(ほぼ必ず)マリワナ入りのケーキやらクッキーやらのようで、レシピについて話していると、まずバターで大麻をいためて成分を溶かし出すでしょ、という過程がかならずある。普通にパイプで吸うのの何倍かの効果らしく、この間は彼氏の友達が空腹時に普通のブラウニーと間違って彼の特製ブラウニー食べて、そのときはよかったんだが数時間後にレストランでごはんを食べている際にブラックアウトしてしまい(ほんとに白目を向いて倒れた)、事情を察した彼氏は救急車を呼ぶこともできず必死で友人を介抱し、彼を肩に担いで帰ってからそのMFAの男の子を死ぬほど叱りつけていた。

なんのこっちゃわからなくなってきたが、だいぶ身も心もアメリカナイズされたとはいえ、脆弱な身体ゆえ、身体に入れるものについては重々用心しているので彼のブラウニーは食べていない。だいたいわたしなんかカモミールのハーブティー飲んだだけで寝ちゃうんだからそんなもん食べたらどうなるかわからない。今学期も薬をあまり飲むことなく、健康でいられますように。あ、これが達磨のお願いかなぁ。