お金貯めて三日泊まるのが夏休み
週刊誌読んでやって来れば数珠繋ぎ
冷めたスープ放り投げるように飲まされて
二段ベッドでもあたいの夏休み
Summer Vacation  あたいのために
Summer Vacation  夏 翻れ

—中島みゆき「あたいの夏休み」

2011年6月15日水曜日

PJ Withdrawal and Raspberry Chocolate Cake

例の二日酔い以降、なんとはなしに意気があがらない。PJと電話をして、夏風邪かもしんない、といったら、いやいやそれはPJ withdrawalだよ、と笑われた。Withdrawal というのは薬やアルコールなどに対する依存症のある人が急にそれらを摂取するのをやめた時に起こる離脱症状である。写真はMeth Withdrawal(Methというのはmethamphetamine。あれですね、のりPの)のページのものなわけだけど、たしかに最近わたしはこんな表情で机の前に座っていることがある。

PJ withdrawalというのは言い得て妙なものだ。たしかにBaton Rougeにきて10ヶ月(ここに来たのが8月の頭、初めてPJに会ったのが8月の半ばなので)、ほぼずっと隣にPJがいたわけで、学校の忙しさがピークのときなど、ほっといてちょうだいよ!という風にもなったわけだが、初めてこうやって離れてみると、わたしにとってBaton Rouge=PJだったんだなぁ、などとつくづく実感する。夏のBaton Rougeの暑さというのは想像を絶したもので、3月半ば以降長袖というものにはついぞご縁がないし、湿度は常に80%以上、しかも街の北部にはけっこうたくさんのchemical plantがあるのでBaton Rougeの空気は全米で1、2を争う汚さなのだが、湿気のせいでその空気の汚れがますます強く感じられる。友人等はBaton Rougeをthe filthiest town in the nationなどと罵るし、けっこう多くの人がこの暑さに耐えられず街を脱出する(アングロサクソンの人々の気温の感じ方は明らかに我々とは違うようで、たぶん体感温度が4から5℃くらい違う)。が、相変わらずわたしはこの暑さが大好きで、喫茶店の外の席であつーあつーと言って汗をかきながら読書に励んでいた…わけなのだが、ここ2日ほどはBaton Rougeなんてなにさ、もう知らない、みたいな気分なのだ。

それに加えて、いま書いている論文もまた思い切り暗い。Willa Catherはアメリカ南西部を舞台にしたMy AntoniaとかO Pioneers!で有名な20世紀初頭の作家なのだが、70年代以降(いやほんと60年代、70年代というのはこういう時代なんだな)レズビアンであることが「発見」されて、それ以来彼女の作品にはセクシュアリティ分析が大きなジャンルとして加わっている。しばしば問題とされるのは彼女が一貫して自分のセクシュアリティについて沈黙を守り続けていたことで、Catherが遺書の中で自分がこれまで書いた手紙の一切を後の研究者が引用することを禁じ、またgross indecency trialで裁かれたOscar Wildeを酷評したことなどから、彼女はある種のhomophobiaを内面化していたという風に論じられることが多い。

わたしが今扱っているThe Professor's Houseというのは1925年の作品なのだが、主人公のProfessor St. Peterは彼の死んだ生徒であるTom Outlandに対する尋常ならぬ思い入れとともに、小さな書斎に閉じこもって家族とのかかわりを断っている人物である。この書斎はどうみてもclosetだよね、という印象からわたしの論は始まっているのだけれど、ただしわたしはSt. Peterのセクシュアリティを抑圧されたhomosexualityとして捉えるのではなく、closetの中に閉じこもり、melancholicに失われた対象と同一化することで得られるある種のautoeroticismであると論じて、Catherのセクシュアリティに関する沈黙と彼女の"the thing not named" ("The Novel Démublé"という彼女のエッセイに出てくるフレーズで、これまたしばしば"The love that dare not speak its name" というhomosexualityのcodewordに結びつけられる)に対するこだわりを、20世紀のhomo/hetero binaryのディスコースと性解放のディスコースに参加することに対する抵抗として読んでいるわけだが、このmelencholia分析のおかげでわたしはいまちょっとばかり心理的にやられているのかもしれない。すべてのペーパーというのは自分にとってなんらかの意味でpersonalなものなわけで、だからこそ研究がやめられないのだから、ある意味ではこの状況を楽しんでいるといえば楽しんでいるのだけど。しかしなぁ。

***
そんなわけであまりずっと論文だけに係っていてもよくないな、と思い、ケーキを焼いてみた。気づけばチョイスはPJの大好きなRaspberry chocolate cake…ううむこの心理状況はPJの不在に関わるメランコリーだということなのだろうか。まぁ、そう考えたほうが気分がよいので、それはそれでよしとしよう。久々のうだうだポストだが、お味の方はばっちりなのでご安心を(実際これを食べたら少し元気になったので、いまからまたペーパーに戻れる)!ついでにこれと似たレシピでチョコスフレも作ったのだけど、それはまた今度紹介することに。

[Raspberry Chocolate Cakeのレシピ(18cm丸形)]
☆Raspberry 1パック(180gくらい。ケーキ用の120gとソース用の60gにわけておく。ちょうど季節なのでフレッシュを使ったが、冷凍でもいい)
☆製菓用チョコレート(カカオ分65%くらいのもの)180g
☆発酵バター 140g
☆グラニュー糖 145g(ケーキ用の50gとメレンゲ用の70gとソース用の25gにわけておく。めんどくさくてすみません)
☆小麦粉 20g
☆卵黄 60g (約4個分)
☆卵白 180g (約4個分:冷凍庫でまわりがすこし凍るくらい冷やしておくと安定したメレンゲになる)
☆レモン汁 小1

①チョコレートは刻んで(わたしが使っているのはすでに小さなチップになっているものなのでこの必要はなし)バターも小さくして溶けやすいようにする。
②ボウルに①を入れて、湯煎にかけて完全に溶かす。40℃くらいになったら火から下ろす。この間、型にオーブンペーパーを敷いておく。底は丸く切って敷き込み、まわりにはぐるっと巡らす。けっこうべったりくっつきがちなのでこれを怠ると型から抜けない。
③グラニュー糖50gを入れてよく混ぜる。その後卵黄、またよく混ぜる。さらに小麦粉をふるい入れて、またよく混ぜる。このあたりは手早く。
④メレンゲをしっかりめに立てる。卵白に70gのグラニュー糖のうちひとつまみを加えてハンドミキサーの高速で泡立てる。しっかり泡立ったら(いわゆる「お辞儀をするくらい」の固さ)残りの70gを3回にわけて入れて、その都度しっかり泡立てて、最後に低速できめを整える。最終的にはすこしすくいあげて逆さにした時に落ちてこないくらいの固さにする。
⑤③に④とラズベリー120gを加え、ゴムベラでさっくりと混ぜ合わせていく。色が均一になったらOK。
⑥用意した型に⑤をゆっくりと入れる。180℃で45分から50分焼いて、冷めたら型から出す。チョコレート系のお菓子全般に言えることだけれど、焼いた当日は味が馴染まないのであまり美味しくありません。翌日ないし翌々日にめしあがれ。
⑦そのままでもよいのだけれど、ソースをかけるともっと美味しい。ソースは小鍋にラズベリー60gと砂糖25g(要はベリーの40%の砂糖ということ)をいれて軽く混ぜ合わせ、弱火にかけてコトコト約5分(ベリーの形を残したい場合は煮ている間あまり混ぜないこと。水分が自然に出てくるので焦げることはない)。様子をみていい感じになっていたら最後にレモンを加える。生クリームを泡立ててそこにたらしてケーキと一緒に食べればさらに美味しいし、アイスやヨーグルトにかけて食べてもおいしい。ちなみにブルーベリーでも同じ要領で作れます。

BRを発つまで残りあとわずかなのであまった生クリームを使う暇もないかな、と思い、おそるおそる写真のスプレー缶入りのクリームを使ってみた。添加物などを気にする向きの方々にはおすすめできないけれど(実際賞味期限の長さにどん引きしなくもない…)いやはや簡単便利に負けました。いつもコーヒーショップとかで店員さんがもしゃーっとフラペチーノ的なものにかけるのをみて興味津々だったのが(ちなみにSt. Augustineで食べたKey lime pieの写真のクリームもこれだったし、テレビドラマなんかで女の子達が夜中にこれをそのまま缶から飲むように食べるのも目にする。もちろんポルノでは…あとは説明は不要ですね)、使ってみるとバラの口金で絞ったようなクリームが簡単に出せてしまうのでちょっと感動した。いや身体に悪そうだけどさ、まぁアメリカーナの醍醐味ということで一度くらいはね。さあ土曜日にはこちらを出発してLAだ!がんばるぞ!

※追記※
出発前に冷蔵庫の野菜を全部食べなければいけないので、さて大量のromaine lettuce(こっちではこれがとても安い。3個パックで$2くらい)をどうやって食べようかなと思い、シンプルなレタスのサラダを作ってみた。ただちぎって市販のドレッシングをかけたり、茹でてオイスターソースとマヨネーズで和えたりと、いろいろ食べ方はあって、どれも手軽でお気に入りなのだけど、この食べ方も簡単でけっこうおいしかったので、覚え書き。もちろん普通のレタスやキャベツなどでもできますが、それぞれひとつ使うとromaineよりだいぶ葉っぱの分量が増えるので、様子をみながら加減してください。いつものサラダレシピのとおり、材料と分量は適当なので、とにかく手近にあるもので。

[Simple romaine lettuce salad]
☆romaine lettuce 1株
☆ミックスナッツ 大2
☆パルメザンチーズ 大1弱
☆オイル 小1弱(好みのオイルで。わたしは胡麻油をよく使います)
☆砂糖 小1
☆塩 小1/2 (これも好みのお塩で。わたしはガーリックソルトを使います)
☆酢 小1(くどいですが好みのお酢で。レモン汁でもいいし、ワインビネガーやバルサミコでもいけます。わたしは味をみながら何種類か混ぜます。)
☆黒こしょう 少々

①レタスは粗めの千切りにする。
②レタスをオイルで和える。トスするように。
③お砂糖を全体にまぶして、またトス。
④塩、酢、胡椒、パルメザンをそれぞれまぶしてトスの繰り返し。
⑤ミックスナッツを粗く刻んで最後にぱらりと。

ポーチドエッグを乗せておいしくないわけがないよね、ということでこちらもご紹介。ポーチドエッグは見た目によらず簡単で、たっぷりめのお湯をぐつぐつ湧かしてお酢を小さじ1くらい入れて火を弱め、お玉でうずを作った中にお椀等に割った卵をそっと流し込んで、お箸等で白身の広がりを抑えて2分半。またはマグカップにお水(1cmくらい)とお酢少々を入れた中に卵を静かに割り落とし、爆発防止に黄身に竹串などで穴をあけてレンジで約50秒。写真はレンジバージョン(お湯で作った方が白身と黄身の食感のコントラストが楽しめます)。

あとは、そうだな、お砂糖を少し控えめにしてドライクランベリーを刻んで入れたのもおいしかった。なんといってもベリー、ナッツ、チーズの組み合わせは最強なのだ。ちなみに写真の木のボウルは日本のもので、そのままボウルで和えてテーブルに出せるのでお気に入り。日本に帰ったらまた木の器を買おう、そうしよう。料理というのは不思議なもので、なんだかんだでいろいろ作って食べてたら元気が回復して、無事に書き直しの第一稿が出発前に仕上がりそうだ(というかいっそ単に栄養が足りてなかっただけかもしれない気すらしてきた)。