St. Augustineは大西洋に面したビーチなのだが(そして実際ゴーグルをしてたっぷり泳いで真っ黒に日焼けしたのだが)、なにより特筆すべきはこの街がアメリカ本土に現存する最古のヨーロッパ植民都市だということだ。湾にかかった橋を車で渡ると、写真上のようなヨーロッパ風の建物が現れる。St. Augustineの歴史は波乱に満ちている。街は1565年、他の多くのFloridaの街同様、Seminole Indianを制圧したスペインの入植者により創設され、フランス、イギリスのプロテスタント軍(それからカリブの海賊!)による攻撃を受けつつ、約2世紀に渡りカソリックであるスペインによる統治が行われた。が、1763年にthe French Indian War (イギリス軍対フランス=ネイティブアメリカン連合軍の戦争で、フランス連合軍はイギリス軍に大敗を喫する)が終結し、Treaty of Parisが締結されて大規模な植民地改変が行われると、Floridaはイギリス領となる。ただしこのイギリス統治は大変に短命で、1775年に始まり1783年に終結したアメリカ独立戦争の結果、再びFloridaはスペイン領となる。Floridaがついにアメリカ領となるのは1821年だが、Civil War(南北戦争ですね)ではFloridaは南軍(嗚呼 我らがConfederate!)に与し、連邦を脱退。最終的にSt. AugustineがUSAの一員となったのは1865年、南北戦争終結時のことである。19世紀末になると写真のFlagler College(そうなのだ、大学なのだ、この美しい建物は)を建てたHenry Flaglerというアメリカ人tycoonによって鉄道が敷設され、St. Augustineは現在のリゾート地への道を歩むことになる。そうかなるほどありがとうWiki。勉強になりました。
1695 年にスペインによって作られたCastillo de San Marcosという海に面した砦はcoquinaという貝殻を合わせた石灰岩の一種で出来ていて、今でも中に入って見学することができるのだが、St. Augustineの波乱の歴史を示すように砦内部には写真のように、アメリカ国旗の他にConfederateの旗(嗚呼我らがFlags in the Dust!)、スペイン国旗、イギリス国旗などが飾られている。ちなみに砦では一日一回大砲の実演が行われて(ただし玉自体はもちろん出さない)、私たちが行った時は海に浮かんだ自家用ボートからそれを見学する人々もいて、大砲が轟音をあげて火花を散らすと、ボートに乗った子供が打たれたふりをしてドラマティックに胸を抑えて後ろ向きに海に落ちてみせて見学者の歓声ををかっさらっていった。
St. Augustine市内は、はて、どういったらいいか、このブログの写真がとても参考になるのだけど、「アメリカなのにヨーロッパ」というキャッチフレーズが実にぴったりくる街である。メルヘンだ。乙女だ。はじめに街に行った時は夕暮れだったので思わず目が♥になった。が、週末の日中に来てみると、京都は新京極を思わせる観光地ぶりが否定できなくもない(怪しげなガラス細工の店とかあるしね)。New Orleansにもすこし通じるところはあるのだけれど、なにかが違うんだよな、と思ったのは、あの猥雑さがないことで、なんというか生活臭がないのだ。ある意味ではSt. AugustineはNew Orleansよりも徹底したリゾート地で、穿った見方をすればアメリカ人のヨーロッパコンプレックスみたいなものをうまく刺激するように作られている…と言えなくもない。いやもちろん古くていい街並みなのだけど。そして人々がリラックスムード満点でフラヌールごっこをしているのは癒されるといえば癒されるのだけど。でも人と店が多すぎて疲れたというのが実は正直なところでもある。
しかし、ごはんはうまうまである。もちろんリゾート地だからということもあるのだろうけれど、どうも理由はそれだけではないらしい。Floridaは全米一居住者の平均年齢が高い州なのだけど、それはなぜかというと常夏のこの州がretireの先に選ばれるからで、St. Augustineには全米でレストランを経営していた人々がretireして新たに店を出しているとかいないとかでよいレストランが豊富にある(逆にいえばretireして生活費の高いFloridaに店を出せるくらい成功した人々の店ばかりがある)。スペイン料理のお店、リヨン料理のお店、キューバ料理のお店(FloridaのLatino率の高さ、とりわけCubano率の高さには目を見張るものがある。もちろん聞こえてくるアクセントもLouisianaとは全く違う)などなど入ったレストランは大抵おいしかったのだけど(中には観光地らしいレストランもあったけど)、中でもお気に入りはその名もFoloridianというカフェレストランのようなところで、すべて地産のシーフードと野菜を使ったFlorida料理を出してくれる。特に印象的だったのは写真のFried Green Tomato。その名のとおり熟す前のトマトを揚げたものなのだけど、Florida名物と聞いてはいたが、いやほんとにおいしかった。
***
FGTの他にもうひとつ、Floridaに来たらどうしても食べたかったものがある。Key lime pieである。Key limeというのはKey West特産の小さなライム(普通のライムの半分くらいのサイズ)で、アメリカでは「キーライムパイ味のガム」「キーライムパイ味のクッキー」「キーライムパイ味のアイス」などがどこのスーパーでも売っているのだけれど、肝心のキーライムパイ自体をわたしは食べたことがなかった。日本の「きゅんと甘酸っぱい恋の味」的な表現による刷り込みなのだろうと思うが(アメリカでは「恋」が「甘酸っぱい」というのはよくわからないらしい。Bittersweetという表現が恋を表すことはあってもSweet and sourというと中華とかタイ料理にしか結びつかない)、わたしはレモンやライム味のお菓子にめっぽう弱い。Vegetarianで極右甘党のAにキーライムパイを食べないとLouisianaに帰れない、と言ったら、なんて、なんてすばらしいミッションなんだ!と興奮しておいしいキーライムパイを一緒に探してくれた(PJは我々の女子的熱狂にひいていた)。夜風にふかれながらAと夢中で食べた、冷たいフィリングにたっぷりのホイップクリームと蜂蜜をかけたkeylime pieはしばらく会えない友達との思い出の味になった。そんなわけで再現レシピを書いておこう。ただし今回はフィリング作りであまった卵白を使いたかったのでトッピングとしてメレンゲを載せて焼いたのと、伝統的なグラハムクラストのカロリーに恐れをなしたのでくるみのショートブレッド風クラストを使ったのが正統的なレシピとの違いです、あしからず。
[Key lime Pieのレシピ]
★グラハムクラスト☆グラハムクラッカー 150g
☆バター 75g (わたしは塩味の甘味に弱いので有塩と無塩を混ぜたが、もちろん無塩でも。レンジなどで溶かしておく)
☆ブラウンシュガー 大1
☆塩 少々
または
★くるみのショートブレッドクラスト
☆薄力粉 70g
☆バター 35g (ちいさなキューブにしてよく冷やす。冷凍庫にいれても。)
☆くるみ 35g
☆ブラウンシュガー 20g
☆塩 少々
★フィリング
☆ライム果汁 120cc (ライム5個あるいはキーライム10個くらい)
☆ライムの皮のすりおろし 小2(緑の部分だけ。白い部分は苦い。)
☆コンデンスミルク 250cc(こちらでは14oz缶というのが売っていて、それの2/3くらい)
☆卵黄 3個分
★トッピング
☆卵白 3個分 (よく冷やしておく、冷凍庫で少し回りが凍るくらい)
☆砂糖 70g
☆ライム果汁 10cc (普通はレモン汁だが今回はフィリング分のライム果汁からすこし取り分けておく)
①クラストから作る。伝統的なグラハムクラスト(これも作ったがやはり背徳的でおいしかった)の場合、グラハムクラッカーをフードプロセッサーにかけて、粉状になったらブラウンシュガーと塩を入れてさらに混ぜる。混ざったら溶かしバターを加えてまたFPで混ぜる。ショートブレッドクラストの場合はすべての材料をFPに一気にいれて10秒ほど混ぜる。バターがお米くらいの大きさになるまで。
②①を20cmのタルト皿に敷き詰める。砂の城を作る要領で押し固める。グラハムの場合けっこう根気がいる作業だが童心に帰って楽しむのがコツ。底面はグラスなどで押すとよい。
③180℃(350°F)で15分くらい。焼けたらよく冷ます。グラハムの場合、特に焼きたては固まっていないようで不安だが冷やすと固まるので心配しすぎないこと。
④次はフィリング。卵黄をよく溶いて、コンデンスミルクを加えてよく混ぜる。さらにライム果汁を少しずつ加えて混ぜる。最後にライムの皮のすりおろしをいれてひとまぜ。
⑤③に④を流し込む。180℃で15分。冷蔵庫あるいは冷凍庫などでよく冷やす。メレンゲを載せない場合はこれで終了。トッピングにホイップクリームを載せてもいいし、なにも載せなくてもいい。
⑥最後にメレンゲ。よくよく冷やした卵白にライム果汁と分量の砂糖からひとつまみを加え、ハンドミキサーの低速で軽く全体を混ぜる。卵白がほぐれたら高速にして約4分。砂糖の1/3を加えて30秒を3回繰り返す。メレンゲにつやがでて先がぴんと立つまで。泡立てすぎるとぼそぼそになるので注意。
⑦⑤に⑥をのせていく。デコレーションの仕方は好みだが、真ん中を小高くもるのが基本の様子。スプーンの背で角を立てるのもベーシック。ゴムベラやパレットナイフで模様をつけてもいい。
⑧粉砂糖を少し振りかけて200℃のオーブンで12分くらい。写真はオーブンの温度が高すぎたので角が焦げている。全体が(均一ではなくても)うっすらきつね色になるのが正しいあり方。またよく冷やす。最後にライムの皮を少し削りかけても。
夏にぴったりの爽やかなケーキだと思う。PJの家に泊まる度にモーニングコーヒー(というかエスプレッソ)を入れてくれたAを思い出して今日はコーヒーと食べた。そういえばPJはAのエスプレッソがないと朝のお仕事ができないと嘆いてエスプレッソメーカーを買ったが、やっぱりなにか違うと嘆いていた(…なんの仕事かは想像にお任せしますが、わたしにとっては朝のニコレットがそのお仕事の鍵です)。Georgia出身のAの南部アクセントが理解できなくて、最初は彼がしゃべっているといつもぽかんとしてばかりだったのに、それでも優しく見守ってくれたこと、しばらくしてコミュニケーションがとれるようになったのをとっても喜んでくれたこと、きっと忘れない。1年間、ほんとうにありがとう。Georgiaでの日々が豊かなものでありますように。