お金貯めて三日泊まるのが夏休み
週刊誌読んでやって来れば数珠繋ぎ
冷めたスープ放り投げるように飲まされて
二段ベッドでもあたいの夏休み
Summer Vacation  あたいのために
Summer Vacation  夏 翻れ

—中島みゆき「あたいの夏休み」

2011年5月31日火曜日

Memorial Day and BBQ

我々大学院生にとってはもう2週間ほど前に夏休みは始まっているのだけれど、多くのアメリカ人にとって「夏休み」シーズンの始まりを告げるのが5月最終週の月曜日、Memorial Dayである。なんのmemorial?というと、うーん、war memorialだね、という答えが返ってきて、なんのwar?というと、うーん、そうだなぁ、最初は南北戦争だったらしいけど、いまはだいたい全部の戦争かなぁ、ということ。なんだか歯切れの悪い返事だが、つまるところ、もともとは戦死者を弔う日だったようだけれど、いまは定義もゆるんで、戦争にいったかどうかに関わらずお墓参りにいったり、久々に家族で会ったり、三連休なので旅行に行ったり、とりあえずアメリカ万歳、夏休み万歳、とみんなで盛り上がる日のようである。アメリカと夏休みを祝うためにかかせないものといえば、そう、バーベキューである。そんなわけでルイジアナの灼熱の太陽のもと(ちなみに日中は100°F、つまり40℃近いわけだったのだが)、自分が焼豚になるのではないかとくらくらしながら肉を貪り食ってきた。

アメリカといえばバーベキュー、バーベキューといえばアメリカ、というほどにBBQはアメリカ精神の源なのであるが、日本でいうところのバーベキューとこちらのバーベキューは少しばかりおもむきが違う。日本でバーベキューというと炭火で直火焼きをするイメージかと思うのだけれど、アメリカではその料理法はgrillingないしbroilingと呼ばれる。それではberbecueとはなにを指すかというと、高温の煙でじっくりと燻すような料理法なのであった(写真の全アメリカ人必携のBBQセットは、上の蓋をカパンと閉じて蒸し焼きにするようにできている)。もともとはSpainの入植者達がアメリカに豚を持ち込み、初めて豚を目にした南部のネイティブ・アメリカン達がそれをこの料理法で調理した、というのがberbecueの発祥らしく(ただしberbecueの語源であるbarbacoaという言葉はカリブ海地域のTaino族と呼ばれる人々の言語で「聖なる竃」を意味する)、berbecueは今でも南部のシンボリックな料理のひとつに数えられる。

基本的にはこの炉によるslow cookingの方法を総じてberbecueと呼ぶので、なにも多摩川河川敷でなくても室内でやったってberbecueはberbecueなのである。そんなわけでアメリカ全土、特に南部では犬も歩けばというほどにBBQレストランに遭遇する。日本の焼き肉屋さん(ただし調理済み)に相当すると考えればいいくらいだと思うのだが、値段は断然お手頃。ちなみにわたしの近所にはVoodoo Berbequeといういかにもルイジアナな名前のレストランがあり、見た目は超がつくほど怪しいのだが、安いしお肉はほろほろだし、今思い出して思わず生唾を飲んだくらいおいしい(が、いかんせんわたしの脆弱な腸では消化しきれないので、3ヶ月に一度くらいしかいけないのが残念なところ)。それから特筆すべきはソースで、日本でバーベキューソースというとあのケチャップとウスターソースを混ぜたような甘いたれが即座に連想されると思うのだが、どっこいこちらのバーベキューは土地によって味付けが違う(焼く肉の種類も違う)。North Carolina出身の男の子が言うことには彼の地元ではvinegarベースのマリネードに豚肉を漬け込んで、丸一日かけて焼く(というか燻すというか)らしいし、LouisianaではいつものごとくCajunスタイルのスパイシーなソースが定番である。

さてそれでは先日のBBQはどうだったかというと、どっこいこれがLouisiana風ではなかった。PJの新しいroommateであるgeekなDくんは以前も書いたかもしれないが高校生の時にコックになりたくてレストランでシェフについてふた夏じっくり料理を習った(その後Faulknerに出会い、自分はFaulknerの生まれ変わりだと確信して今に至るわけだが…しかしFaulknerの生まれ変わりはいったい何人いるんだろう、日米問わず)という強者で、普段は料理はあまりしないのだが、こういう機会になると俄然本領を発揮してくれる。上の写真にあるようなおしゃれなミニケバブ(ミニトマト、紫玉ねぎ、パプリカとチキンを一晩マリネードしたもの)とアスパラのベーコン巻き(アスパラ5本くらいずつを二枚のベーコンで巻いて、これも一晩マリネードしたもの)に始まり、牛ひき肉にブルーチーズ、ペッパーを練り込んだ小さなパテをグリルして挟んだミニバーガー(これはPJが作った)、それに立派なシャトーブリアン(さすが肉食系女子、Hが「Farmer's marketで買ってきた。24時間前まで生きてたんだって♥」といって買ってきてくれた)に焼きとうもろこし、と実に多種多彩だった。

わたしは毎度のごとくデザート担当で、今回はLouisiana産のブルーベリーが手に入ったので前回のタルト生地のあまりでブルーベリータルト、それからラズベリーが安かったのでマフィンカップでラズベリー入りのガトーショコラを焼いてクリームとブルーベリーソースで飾り、中心部のくぼみにバニラアイスとラズベリーソースを落としたものを作ったのだが、結局自分のデザートに辿り着く前に完全に腹が膨れてしまい、食べずじまいだった。みんなが帰った後でゆっくり食べようと思ったら会がお開きになる頃には両方とも見事に全部なくなっていて、アメリカ人の健啖さにまたも舌をまいた。タルトはホールだったし、ガトーショコラは10人だったので予備を含めて15個焼いたはずなんだけど。いや、もちろんうれしかったんだけど。それに焼いた後に味見はしたからいいんだけど。仕方ないので深夜に余ったバニラアイスにラズベリーソースとブルーベリーソース(どちらもものすごく簡単、小鍋にお砂糖とベリーを入れて少し煮立てて、最後にレモン汁を加えるだけ)をかけて、red, blue, and whiteでひとりアメリカ祭りをした。


***
そうなのだ、なにしろ今回はMemorial Day。フランボワーズ・ガトーショコラなどというフレンチかぶれた料理ではなく、これまたアメリカの魂のふるさと、ポテトサラダのレシピを紹介しようと思う。これはPJが教えてくれたのだけど、日本でいままでわたしが作っていたポテトサラダより格段においしかったので、覚え書き。

[PJのアメリカン・ポテトサラダ]
☆ジャガイモ 中6個(大なら4個。こちらではred potatoというのが小ぶりでおいしいので今回はそれを6個使った。)
☆新玉ねぎ 1個(普通の玉ねぎでも可。こちらではsweet onionというものがあるのでそれを使った)
☆Serrano pepper 1個 (青くて小さい唐辛子、なくても可…何で置き換えられるだろう?)
☆にんにく 1かけ
☆Vegenaise  大さじ4から6(vegetarian用のマヨネーズで、卵は使っていないのでカロリーも控えめ。こちらでは普通に売っているのだけど、材料も下に書いておいた)

①ジャガイモは8等分にして、大きなお鍋で水から茹でる。(red potatoは皮が柔らかいので剥かなかったし、基本的に皮は剥かない方がなんでも美味しいと思うのだけど、気になる場合はもちろん剥いても。)
②新玉ねぎはスライス。Serrano pepperもスライス。にんにくは潰してみじんぎり。
③フライパンにオイル(適量)とにんにくを入れて火をつける。じゅわじゅわとにんにくの香りがしてきたらSerrano pepper、新玉ねぎも投入。とにかくここでじっくり炒めること。基本的にそんなに触らなくてよい。焦げ付きに注意しながらたまに混ぜる程度で放置。飴色とまでいかなくても、きれいなきつね色になるまで。その間に他の料理を作っているといい。
④だいたいジャガイモのゆで上がりと③の完成が20分から30分と同じくらいなので、ジャガイモを茹でこぼしてよく水をきり、ボウルに入れて③とあわせる。
⑤ここで塩、こしょう、そしていつもすいません秘密のCajun spiceを好きなだけ(なければないで、チリペッパーとかキッチンの棚の奥に眠ってるいろんなスパイスを使ってあげてください)。ざっとあわせる。途中でじゃがいもが少しずつ潰れてくるが、日本のポテトサラダのように完全にマッシュはしない。
⑥Vegenaise、それからマスタードを味を見ながら加えて、さらに混ぜる。ここでディルやローズマリーなどのハーブがあれば入れる。温かいうちでもおいしいけれど、やっぱり冷やすともっとおいしい。

[vegan mayonnaise]
☆豆乳 1カップ
☆レモンの絞り汁 大さじ4 (大きめのレモン1個半くらい。あるいは同量の果実酢)
☆塩 小さじ1/2
☆粉末パプリカ 小さじ1/2
☆マスタード 小さじ1/2
☆蜂蜜 小さじ1/2
☆オリーブオイル カップ1/2

①オイル以外をブレンダーにかける。一番低速で。
②混ざったら、オイルをほとんど一滴一滴といってもいいくらいゆっくりと加える。その間もブレンダーは低速。でないと分離してしまう。
③だんだんとろみがついて、滑らかになるまでブレンダーで混ぜ続ける。冷蔵保存。

ほかにも豆腐をつかったレシピなどもあるけれど、これが一番簡単でお手軽なレシピのようだ。当然だけど普通のマヨネーズよりあっさりしていて、わたしはけっこう好きなのだった。ちなみにveganというのはvegetarianのさらに厳格なもので、お肉や魚はもちろんのこと、チーズ、バターなどの乳製品も使わない。PJはDが超してくる前、vegetarianのAとveganのMと暮らしていたのだが、お肉をむさむさほおばっていると二人から「…野蛮っ!」みたいな目で見られるのがちょっと辛かったらしく、お肉隊長のDと一緒に暮らすことになってほくほくである。ううむ、お腹のぽっこりがちょっと心配。

※追記※
先日、Tennesseeに行ってきた友人がMemphis特産のBBQソースを買ってきてくれた。このソースを使ってPJがBerbecue Chiken and Wild Riceというのを作ってくれて、いつもながらシンプルでとてもおいしかったので、覚え書きレシピを追加で書いておこう。

[Barbecue Chicken and Wild Riceのレシピ]
☆玉ねぎ 1個
☆ズッキーニ 2から3本
☆オクラ 2から3パック (ちなみにokraは南部料理に欠かせない野菜なので、こちらではとても安いし、冷凍でもたくさん売っている。中でも人気なのはfried okraなのだけど、この料理はまたいつか他の機会に)
☆鶏もも肉 1枚
☆ワイルドライス(玄米)1カップ
☆BBQソース 適宜(大さじ4くらい)
☆Creole spice (なければいつものようにパプリカ、ガーリックペッパー等で代用可)
☆塩こしょう

①玉ねぎはみじん切り、オクラは軽く湯がいて厚めの輪切り、ズッキーニも厚め(8mmくらい)のいちょう切りにする。鶏ももは一口大にして塩こしょう、酒をふっておく。
②ワイルドライスを洗って、鍋に水2カップとともに入れ、火にかける。沸騰したら弱火にして、ワイルドライスが水分を全て吸うまで(ちなみにこちらではごはんを炊く時はみなこうしたやり方になる。もちろん炊飯器で普通に炊いてもいいのだけれど、これはこれでアルデンテの粒パスタのように仕上がるのでこういう料理には向いている)。
③フライパンをよく熱して、オリーブオイルで玉ねぎをじっくり炒め、きつね色になってきたら(約15分弱)ズッキーニも加えて、さらに炒める。ズッキーニがしんなりしてきたら(3分弱)オクラも加え、さらに約2分ほど炒める。塩こしょう、クレオールスパイスで軽く味付け。ただし後でBBQソースを投入するので、そんなに濃い味にしなくてもOK。
④野菜を一度お皿に取り出しておいて、同じフライパンに少しオイルを足して十分にオイルが熱したら鶏肉を炒める。野菜のうまみを鶏に絡めるように。
⑤鶏肉に火が通ったら野菜を戻し、あわせて炒める。
⑥BBQソースを加えてさらに混ぜ合わせる。ワイルドライスを加えて炒めあわせてもいいし、別添えにして食べてもいい。所用時間、約30分。