もう一週間前になるけれど、New Orleans に行ってきた。
New Orleans までは Baton RougeからI-10というInterstateを通って約1時間。アメリカ的に言えばこれはご近所レベルである。5年前のHurricane Katrina の爪痕もまだ癒えぬうちにGulfのoil spillに見舞われたこの街は、東洋人的にいえばもしかして風水的になにか良くないのかもしれないなどと思わずにはいられないのだが、実はこの街自身も「全米一呪われた都市」を誇っている。
昨今、キリスト教を捨てたことで話題になっているAnne RiceのInterview with Vampire(Tom Cruise主演で映画にもなった)もこの街が舞台だった。ちなみに我らがBaton Rougeではこれから大人気ヴァンパイア映画 Twilight の最終章が撮影されるらしい。もうひとつちなみにVampireものというのはアメリカの腐女子(失敬)に大人気の確固たるジャンルで、女子達はイケメン吸血鬼との禁断の恋に身もだえるそうである。さて、日本の腐女子なわたしと友人もVampire tour というウォーキングツアーに参加して、夜のFrench Quaterでいわくつきの建物を巡った。大聖堂の前では写真の眼帯を着けたイケメンガイドが「その階段では、Vampireの調査をしていた女学生二人が失血死しして発見されたんだよ。体中の血液の80%が抜かれていたそうだ。これは頸動脈を切って天井から吊るしてもあり得ない数値でね、しかし僕は長年、しかしなぜ大聖堂の階段にわざわざ死体を置いたのだろうと考えていたんだが、ある時ツアー客のひとりがこう言ったんだ。『それはこれが天国への階段だからです』って」みたいなことを言う。ちなみに一応全部、新聞にも載っている実際の事件なのだった。Vampire tour の他にもGhost tourや、お墓巡りのツアーもあり、夜も更けているというのに、やはり演劇出身とおぼしきガイドに引き連れられた観光客の集団といくつもすれ違った。馬車(馬ではなく騾馬のようだったが)に乗った人たちもいる。New Orleansというのはほんとに観光都市なのだ。
New Orleansはもうひとつ、Voodooでも有名な街である。Voodooというのは、奴隷として連れてこられ、キリスト教信仰を強いられたアフリカ系の人々が、密かに持っていたもともとの宗教とキリスト教をフージョンさせたものである、というのがとりあえず一番シンプルな説明である。アメリカでは多くの場合、一種の黒魔術として認知されているのだが、実際わら人形のようなひとがたを使った呪術や、髑髏や木製の神々、それに呪い/祈りの対象となるものの写真を祀った祭壇、トランス状態の降霊術など、一見かなりおどろおどろしい特徴に満ちている。
わたしが修論を書いたZora Neale Hurstonという黒人女性作家は人類学者でもあり、このNew Orleans Voodooを題材にした本も書いている。彼女はその本のなかで、自分はVoodooのinitiation ritualも経験し、蛇の皮に包まれて飲まず食わずで48時間を過ごし、Voodooの神のひとりと交わって"Rain Bringer"という名を得た、とも言っている。そんな縁もあってFrench QuaterにあるVoodoo Museumにも行ったのだが、そこの管理人のおじいさんというのが(白人なのだけれど)、Marie LaveauというVoodoo Queenの直系の弟子だそうで、彼の念が入ったGris-girisと呼ばれるお守りぶくろ(いろんな種類があって、それぞれハーブがかぐわしい)や件の人形などがお土産コーナーに置かれている。買うときにいろいろおしゃべりをしたので、ついHurstonのことも話したら、急に顔が曇った。彼女は嘘つきだ、Voodooのことなどわかっていないのに、とつぶやく。Hurstonというのは一筋縄では行かない人で、黒人でありながら当時白人言説であった人類学で黒人研究をし、さらに"telling a lie" というのが黒人文化の礎なのだ、と主張する人であったから、彼女の発言の中で何が本当かを見極めるのはいつも困難で、そのevasiveさが好きで研究を続けてきたわけだが、改めてこうした反応に触れると、なにか胸につかえるものがあった。
ともあれ、Voodoo museum で買った恋守りは枕の下に置いてある。わたしは仏教徒なのだが、しばし日本仏教の懐の寛さに甘えることにする。