お金貯めて三日泊まるのが夏休み
週刊誌読んでやって来れば数珠繋ぎ
冷めたスープ放り投げるように飲まされて
二段ベッドでもあたいの夏休み
Summer Vacation  あたいのために
Summer Vacation  夏 翻れ

—中島みゆき「あたいの夏休み」

2011年5月18日水曜日

Double Date

さて話は少しさかのぼってcrawfish boilのときのこと。ちょっと遅れて到着したらパーティを主催してくれたNew Orleans生まれのちゃきちゃきのSouthern belleである3年生のHが戸口で迎えてくれたのだが、そのときにわたしとPJ(彼)を見て「えっなに、やだー付き合ってるのー?いつからいつから?もー知らなかった、超かわいカップルー♥」みたいな素敵女子テンションだったので気圧されっぱなしだったのだけれど、とりあえずごはんにありついてうまうま言ってたら「ねぇこんどダブルデートしよ♥」とまたかわいらしい笑顔で言われ、そんなビバヒルみたいなこと誰がするかい、と思いつつ、まぁ社交辞令かなと思って得意のアルカイックスマイルでごまかしていたら、翌日「初めての1年が終わるんだから、お祝いしなきゃ!来週の土曜日、最近お気に入りのワインバーで女の子にはけっこういいシャンペンがただででるの。絶対行こう!」みたいなメールが来てて、なんか知らぬ間にコーナーに追いつめられた感が濃厚になっていた。

毎度のことながら最初は気乗りがしなかったものの、いざペーパー書き終わって最近買った黒のワンショルダーのワンピースを着て鏡の前に立ったら急に血湧き肉踊って、久々に髪の毛も気合いいれてセットして、ロスに住んでる女友達に写メを送りつけたりしながらPJの迎えの待っていたのだけど、ふと、これはoverdressedなのではないかと心配になり、念のため彼に問い合わせてみたら、「ここは南部だよ。南部にoverdressという文字はないから何着ていっても大丈夫。」と言われた。そうだ、たしかにBaton Rougeのような南部の小都市では別段他に娯楽もないので人々はパーティが大好きで、毎週末どこかしらのレストランやバーやおうちでパーティが催されているのだけど、良くも悪くもみなパーティ慣れしていて、着飾りたい気分のときはおしゃれをするし、そういう気分でもないときはTシャツとジーンズでふらっと訪れる。だからドレスコードのあるパーティ(南部は実はいまだに社交界が存在するところなので、そういうちゃんとしたパーティももちろんある)などは別だけれど、たいていのパーティはいろんな服装のひとがごた混ぜになっていて、とくに誰かが悪目立ちしていたりということはない。だからわたしのワンショルダーくらいどうってことないわけだ。というわけでひさびさに9cmのハイヒールにご登場願い、びしっと決めてダブルデートにのぞんだ。

The Loftというワインバーは雰囲気もワインも食べ物も、まぁ東京だったら絶対こんなオサレなとこ行かないよね、という感じのところだったのだけど(でもごはんおいしかったし、感じはとてもよかった。念のため)、初めてのダブルデートは意外にも和やかに楽しく進行した。しかしなにより特筆すべきは我らが素敵女子H(ちなみに当日はサテン地のばっくり胸元があいたLSUカラーの紫のワンピだったのでわたしごときが浮くということはありえなかった)が当代きってのserial daterだということだった。土曜の時点では「最近デートしてるフランス人の彼」のはずだったのだが、紹介された男の子はCaseyという名前で、うーんそうか、ずいぶんアングロサクソン的な名前な上に英語超うまいなぁ、なまりもまったくないしメニューのフランス語読めないし、てゆうか、ええと、あなたほんとにフランス人?と思っていたらもちろん彼はアメリカ人で、つい一週間前にWashington DCからBaton Rougeにやってきたと言う。ん?一週間前ってどうやって知り合ったの?と聞いたら、普通に「オンライン♥」という答えが帰ってきた。

聞けばオンラインのデートサイト(最大手は日本にも上陸してるmatch.comだけど、その他にもいろいろある)はこちらでは本当に本当にポピュラーで、え、大学院生とか、ふつうにみんなやってるよ?わたしなんてこないだ学校でお財布なくしたとき、2日で見つかったんだけど、でもカードから誰かわからないけどmatch.comの会費が落とされてたくらい、とのこと。Hは去年は30人くらいの男の子とデート(なにをデートとするかというのは人による、というのは前に書いたけど)したということで、そのうち10人くらいはオンラインで出会ったそうだ。吉原真理のドットコム・ラヴァーズという体を張った体験記は日本にいる時に読んだことがあり、アメリカにおけるオンライン・デーティングの普及というのはなんとなくは知っていたのだけど、いざこんなかわいこちゃんがサクラでもなんでもなくいるのを目にすると、あらためて日本の「出会い系サイト」とは似て非なるものなのだな、と実感した。

まぁでもこの風潮は南部だということでさらに磨きがかかってるのかもしれない。もともとアメリカはカップル文化が物凄くて、週末はsignificant otherとquality timeを過ごさなければならないという強迫観念(と言ってもいいと思う)が蔓延しているのに、さらに南部はだいたいにおいてロマンチックイデオロギーの拘束力が北部より強い上、少し田舎だと週末をひとりでなにか趣味に費やそうにも美術館も映画館も(シネコンはあるけど、いわゆる単館系の映画をやっているようなところはない)ないわけなので、前述のとおり娯楽がパーティになりがちである。そうすると自然、あ、週末、誰とすごそう、ということになって、デートの相手をオンラインでちゃかちゃかっと探しておいしいごはんを食べに行こう、ということになるということのようである。ふむ。

特にこの風潮を批判する気はなく(カップル文化について話はじめると長くなるので今日はとりあえず話さないにしても、基本的にはわたしは日本のいわゆる強制的異性愛の拘束力のゆるさみたいなものはすばらしいと思っているのだけど、でも反面、60歳くらいのカップルが手をつないで深夜のアイスクリームショップに来ているのを見たりすると、それはそれでいいなぁと思ったりもする)、Hはdesperateに男を探しているという感じもないし、だいたい料理が趣味で求道的なまでにおいしいごはん作りとそれを写真に撮ることに邁進している上、研究も大好き、おしゃれもお化粧も大好き、という女の子なので、恋愛というものに対するエネルギーの割き方が根本的にわたしやPJとは違うんだろうし、それはそれでいいんじゃないかな、というのが正直な感想である。ただ帰り道、ほろ酔い加減でPJとMississippi河畔を歩いていたら、オンラインでの出会いって良くも悪くもプラグマティックで、まぁでもこうやって土地が大きい国だからそうでもしなきゃ出会いの確立も低いし、それなりにいい出会いがあることだってあるし、それはそれでいいんだけどさ、でもいくら細かくプロフィール項目にチェックいれたって、オンラインじゃぜったい俺たち出会えないじゃない?趣味も歳も国籍もぜんぜんちがうし、Mは煙草も吸うしね。と言われた。初めて会った時、帰りにここに来たよね。あの時、土手に寝転がって、Mississippi見たの覚えてる?あの時はまだMの初めての学期も始まる前で、1年終わる頃にはこんな風に仲良くなって、河もこんなことになるなんて、きっと思わなかったでしょ。

…とロマンチックムード満々で話すPJだったが、要はいまMississippiが1927年以来の水位の高さで、毎日学校から「氾濫の際の退避場所」などのメールが来る始末。先日もうちょっと北のMorganzaというところのspillwayを空けて人工的に一部の地域に洪水をおこし、Baton Rouge と New Orleansの冠水を回避しようとしているのだが、ここ数日のうちに雨でも降ろうものならMississippi徒歩5分の我が家はもちろんぐしょ濡れになるうえ、下手すればうちの周りの道路は塞がれる。たっぷたぷのMississippiが我々が寝転んでいただたっぴろい土手を見事に飲み込んでいるのを見て、これが僕らの愛のシンボルとか言われても正直ピンとこないうえ、恐ろしいし、ああもう、ほんと洪水が起こったらどうしよう、と悶々としていたら、「大丈夫、カヤックで迎えにいくよ」と言われた。いい人なんです。犯罪者みたいな面構えだけど、すごくロマンチックなんです。