お金貯めて三日泊まるのが夏休み
週刊誌読んでやって来れば数珠繋ぎ
冷めたスープ放り投げるように飲まされて
二段ベッドでもあたいの夏休み
Summer Vacation  あたいのために
Summer Vacation  夏 翻れ

—中島みゆき「あたいの夏休み」

2011年5月22日日曜日

Home Party

前学期の終わりもそうだったのだけど、学期が終わって人心地つくとなにがしたいって、タルトが焼きたいのだな。今回は桃のタルト(フィリングはラム入りのアーモンドクリーム)とレモンクリームタルト(チーズクリームの上に自家製レモンカードをのせ、冷やし固めてライムの皮のすりおろしと黄色いラズベリーを飾った)。なぜ二つも一気に作ったかというと、先日PJが自宅でdinner partyを主催し、知らぬ間にわたしもco-hostということになっていたからなのだった。そんなわけでタカトシもびっくりの欧米か具合で、はじめてhome partyなるものを執り行うことになった。

アメリカ(特に南部)人というのは本当にhome partyが好きで、前述のとおり毎週どこかしらの家でなんらかの理由でパーティが行われているといっても過言ではないのだが、その多くはpotluckと呼ばれる持ち寄りのパーティである。しかしたまにちゃんとhostないしhostessが取り仕切るパーティみたいなものもやっぱりあって、最初にわたしがそれに招かれたのは指導教授の家(指導学生全員を招いてくれた)だったのだが、まぁ前菜、サラダ、スープ、主菜にデザートの見事なコースであった(しかも全て地産ものを使ったクレオール料理)。

ただしhostがすべてをコースとして一皿ずつサーブするのは大変(しかも皿が何十枚と必要になる)。なので代わりに、テーブルにセットされたお皿を手にとって、お客さんが自らキッチン(といってももちろんこちらの場合たいていがダイニングキッチンみたいに広いわけだけど)に赴いて前菜から主菜までを自分で取り分けて、テーブルに戻って料理を味わい、一段落したところでhostがデザートをサーブする、というのがフォーマルではないhome partyの定石のようで、実際、その後何度か経験したパーティでもそんな感じだった。それから共通しているのは、コースの前、招待客が集まる時にどのパーティでも、ダイニングとは別のところ(ポーチだったりテラスだったりリビングだったり)にワイン、チーズ、オリーブ、パテ、クラッカーなどをセットしておいて、皆が集まってはじめてダイニングに皆で移動する、ということ。わくわくしながらダイニングに足を踏み入れた時に、花やキャンドルで飾られて完璧にセットされたテーブルを見た時の感動というのは、見通しのきかないだだっ広いアメリカの家ならではのような気がする。

とはいえもちろんわたしたちは貧乏大学院生なので、できることはたかが知れているといえば知れている。ぴかぴかの銀器も燭台もないし、8人分の揃いの椅子もない(ただしアメリカの食器はこうした機会を考慮にいれて大抵の場合「豪華8人セット!」みたいな感じでメインプレート、アペタイザープレート、デザートプレート、ミニボウルなどがそれぞれ8セットずつ入って40ドルくらいからあるので、皿だけはどこの家にも腐るほどある)。それでも空いたワインの瓶にキャンドルを削って立てて、裏庭の花や緑をガラスのボウルに浮かべて、ウォーターグラスとワイングラス、それから畳んだナプキンの上にナイフ・フォーク、スプーンをセットしておくと、それなりに見栄えがするから不思議である。

PJがメイン(ポークチョップ、椎茸とバルサミコ酢のソース添え、サイドはいろいろ野菜のスターフライ)とアペタイザー(マリネしたパプリカ、それからバジルソースと豆の二種類のブルスケッタ)、わたしがサラダ(シンプルなガーデンサラダとキヌアサラダ、それからカリフラワーとモッツァレラ、にんにくの和えもの)とデザートをそれぞれ担当して、お客さんはワインやチーズを持ってきてくれたので、なんだかちょっぴり華やかなテーブルになった。さんざん飲んで、食べて、話して、学期の終わりをみんなでお祝いして、最後はPJの新しいルームメイト(Orange Beachに連れて行ってくれたDくん)のごんぶとの望遠鏡で土星を鑑賞した(土星のわっかがほんとにあったので感動した)。

お客さんが満足して帰ってくれるころには1時を回っていて、お皿を洗い終わることにはふたりともくたくたになっていたけれど、PJは「初めてのco-hostedパーティだったね」ととてもうれしそうだった。考えてみればhostとhostessというのはたいてい夫妻がやるものなので、こういう風にカップルがパーティを行うというのは、ちょっと公に自分達の関係がちゃんとしたものであることをパフォームするような意味合いがあるようで、正直そんなこと思ってもみなかったのでちょっと驚かなかったといえば嘘になるが、まったくうれしくなかったといえばそれも嘘になる。が、同時に「やー1年に一回くらいこういうパーティやると家が片付いていいよね!」と晴れやかな笑顔でわたしがピカピカに磨いた床やら台所などを見渡すPJを見ると、大掃除にうまいこと駆り出されたような気がしなくもない。とにもかくにも、食彩の王国、ルイジアナの食を巡る饗宴はまだとどまるところを知らない。

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さて、最後にこればかりはアメリカレシピには譲れない、タルト生地のレシピを書いておこう。別にわたしは別段ケーキを焼くのが得意というわけではないのだけれど(デコレーションとかできないので生ケーキはめったに焼かない)、このタルト生地だけはどこに出しても恥ずかしくない、とない胸をはって言えるので、もしよければお試しください。

[基本のタルト生地(パートシュクレ)のレシピ:20cmタルト型2台分]
☆無塩バター 100g(値ははるが発酵バターを使うと香りが格段に違う。ちなみにこちらではcultured butterとして売っているのだけど、日本の半額くらい)
☆粉砂糖 65g (普通の砂糖では生地に滑らかに混ざりにくい)
☆全卵 1個弱
☆アーモンドパウダー25g (アメリカではまだ日本のように細かいものが見つからず困っているが、アーモンドミールでなんとかやっている)
☆薄力粉 180g

①バターは室温にもどす(1cmくらいにスライスすると戻りが早い。それでも時間がない場合はボウルに入れてオーブンのwarmモードで3分くらい。レンジは禁物。溶けてしまったら元も子もない。指で押して跡がつくくらい)。
②泡立て器でバターをクリーム状になるまで練る。
③粉砂糖をふるいながらバターに加え、さらにすり混ぜる。白っぽくなるまで。
④よく溶いた卵を3回にわけて加える。その都度よく混ぜ合わせる(一度にいれると分離する)。
⑤アーモンドパウダーも加えて混ぜたら、ゴムベラに持ち替えて薄力粉をふるい入れる。ボールに押し付けるようにしてあわせる。混ぜすぎない。
⑥二等分してそれぞれ丸くしてラップにくるむ。ここで冷蔵庫にいれて一晩寝かせる。時間がない時でも最低6時間は寝かせる。そうでないと生地がだれやすくなる。
⑦型(底がとれるタイプがおすすめ)にバターを薄くぬる。冷蔵庫で冷やしておく。
⑧作業台の上にオーブンシートを敷き、そこに少量の打ち粉をする。その上に冷蔵庫からだした生地をのせ、さらにそのうえにオーブンシートを載せてオーブンシートで挟み込む(邪道といえば邪道だが、これでその後格段に成型しやすくなる)。
⑨生地は固くなっているのでめん棒で数度叩いて扱いやすい固さにする。のばせるくらいの固さになったらオーブンシートごと回しながら3mmくらいにする。タルト型より3cmくらい大きくなるように。
⑩冷蔵庫から型を出す。生地の上のオーブンシートを外し、下のオーブンシートの下に手を滑らせて、ゆっくりと型の上に運び、裏返しにして(つまりオーブンシートが上になるようにして)載せる。
⑪まず底部分だけを密着させる。それからゆっくりとオーブンシートをはがし、型の上でめん棒を転がし、余計な部分を型のふちを使って切り落とす。
⑫型の側面のひだに指を押し当てて、生地を密着させる。後で焼き縮むので、縁から2mmくらい上に出す。
⑬フォークで軽くピケ(ところどころに穴をあける。あくまで軽く)する。これによって縮みが防げる。
⑭焼く前にさらに最低1時間は冷蔵庫で寝かせる(くどいようだが焼き縮みを防ぐ)。前日までにこの行程をすませておくとよい。わたしは2台分まとめて2つの型に敷き込んで、ラップをかけ、その上からジップロックに入れている(生地は乾燥しやすいので二重にしている)。すぐに使わない場合は冷凍庫にいれてもよい。その場合、焼く前に冷蔵庫にいれて解凍する(完全に解凍されていなくてもOK)。
⑮空焼きする場合はアルミホイルを生地の上に被せ、タルトストーンを縁まで載せて180℃で20分。その後一度オーブンから出してアルミ箔ごとタルトストーンをとりのけて、さらに15分。なお、クリームチーズタルトなど、フィリングを焼かない場合はこの段階で底に卵黄を溶いたものを塗って焼くと、生地にフィリングがしみ込むのが防げる。


ふぅふぅ、いや、あらためてこうやって書くとけっこう大変な作業である。なにしろ寝かせる手間を考えると計画的にやらないといけないので、急にタルトを焼くことになるとけっこう忙しい。今回は昼間に⑥までやって、ジムと図書館に行って、その後帰ってきて⑭までやって、二つのフィリングを作ってその後焼いた(なお、アーモンドクリームの場合は空焼きしないでタルト生地にアーモンドクリームを詰め込み、上に果物をのせて50分焼く。アーモンドクリームのレシピについてはOrange Tartのポストを参照)。基本的にその土地の料理に文句をつけることはしない主義だが、アメリカ人には考えられない時間のかけ方だと思う。ちなみに、ぜひレシピを送って、と言ってくれた料理好きの女の子はどんびきしていた。いや、まぁ、アメリカレシピでもきっとおいしいとは思うのだけど、これはもう0コンマ何ミリに命をかけるお化粧と同じで自己満足の世界だから…